台所に響く歌声。古き良き時代の、ブリティッシュロック。
なまえが好んで歌う理由を、俺は知っている。


「コンソメ?ポタージュ?」


ポタージュと答え新聞を広げた。インスタントのスープは、寝起きの体にはそれでも染み入る。
冴える色の紅茶に、白を落とした。


「Living is easy with eyes closed」


秋も深まった。







起きぬけであらいざらしの顔は、いつもより心細い。
けれども、ざっぐりまとめた髪とそれは幸せのしるし。
所々に黒のまじるきんいろの髪を彼はたいそう気に入っている、らしい。


「Living is easy with eyes closed」


かすれた声しか出ない、心細いビートルズ。






「おまたせ、」
「……あらら、なまえちゃん、食べないの?」
「んー、今日はミルクティで十分」
「……こりゃまたタップリいれたね」
「ふふっ」
「じゃあ、いただきます」
「召し上がれ」






香ばしいクロワッサンとポタージュスープ。
目の前には、湯気で少し血色の良くなったなまえ。
いつもみている風景がこんなに柔らかいのは、秋だからなのか。




湯気を通して、クザンを見る。
一瞬広げたであろう新聞は、不格好に追いやられている。
いつもと何ら違わない景色がこんなに優しいのは、秋だからなのかもしれない。




「天高く、馬肥ゆる秋」
「わたし秋、好きよ」
「ふーん」
「でも手足が冷えちゃって」
「…どれどれ」
「、クザン」


案外暖かいのね


「……どういう意味?」
「ヒエヒエの実」









「秋が終われば、冬が来るのよ」
「そりゃあね」
「それから、春がきて夏が来るの」
「そりゃあね」


「わたし秋、好きよ」
「また言った」
「冬も、春だって」
「夏は?」
「好きよ」
「あららら」
「でもね、」


でも、このままずっと、温度も湿度もなんにも違わずに


「ずっとあればいいのに、って思ったことない?」
「、あるなあ」






「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」









「やっぱりもーちょっと」
「なに言ってるのよ遅刻よもう」




******

nothing to get hung about


09/1110

((タイトルおよび随所の英語はStrawberry Fields Foreverより))

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