座って、という彼女の顔はずいぶん下にある。
ちらりと光る目は、冴え冴えとしていてこういうときにはろくな事がないのを知っている。
一応唇は弧を描いては、いる。ポンポン、しきりにソファをたたき催促をする。



ねえ、座って



やれやれ、ポーズを決める俺の心までため息をついているとは限らない。


「違う、足はそろえて」
「ええええ」


人より長い足をピシリと揃えたが、なるほどこれは、


「不気味じゃない?」
「しらないっ!」


勢いをつけ、満面の笑みで膝に飛び乗った彼女はすべり台よろしく見事に俺に(といっても足は…まあいい)落ちてきた。
後頭部が俺の肋骨に激突した。つむじが見える。


「平らに!」
「…はいはい」


目の前の机にしこたま弁慶をぶつける俺をしりめに、激しいバウンドを繰り返す。
かたーい、と随所に文句がはいった。



さすが泣き所、的確だと思った矢先にやっと、彼女は俺に向き直った。
何してんの?には応えず、ベストのボタンをはずしたり掛けたり掛け違えたり


「たた大将青キジ!……ベ、ベストのボタンが」

っへへっうははは


海兵のつもりか、頬をピンクに染めて大笑いするやつがどこにいるやら。
いつもそうやって笑っていればいいものを…


「えぇ、うちのクザンさんはとんだお間抜け様でございまして…ふふっ」
「あらら、直してくれるの?感激だね」


それから頭を撫でてやると、ほうら真っ赤になったお顔とご対面。




しゅるっ、という音に驚いて上を向いた彼女に、仕返しをしてやった。


「お嬢ちゃん、ネクタイがはずれちゃった直してほしいな」
「……まー、クザンさんったら、」


最後の方は聞こえなかった。自分で結べないどうのこうの、と言った気がする。
キュッ、小気味の良い音がして、彼女が離れる直前に、最後の一発をお見舞いした。



ちゅっ













髪を、梳かしているうちに眠ってしまったようだ。
膝の上で器用にまるまって無防備なまつげを晒す姿は、俺にしか見せない。
笑顔も、涙も、睡眠も、すべてがスペシャルで




「……おっさんが、年甲斐もなくほら」






だらしない、と言われるのはなまえ、のせいかもしれないね。







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Xデイ



09/1106


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