そう、あの日もいつもと変わらない、ただの気まぐれ。
快楽を共にするだけのこの関係、明瞭で清潔なところが気に入っていた。
腰に唇を這わせておしりを手でまさぐる男をけれど尻目に、わたしはついこの間つけたばかりのピアスをいじっていた。
正確には、あけたばかりのピアスホールを。両耳に輝くサファイアを。はじける痛みと共に。
この痛みを食べて、わたしは生きるの。
どこかで聞いた台詞がアタマに反響した。もしかしたら自分で言ったのかもしれない。快楽をのせた息に乗せてはき出していたのかもしれない。
それを、あの男は聞いていた、のかもしれない。
「ほい、」
だからあの瞬間、わたしにはなんのことだかさっぱり分からなかった。
男が投げてよこした箱は、小さく、紺色。一見妙な先入観を抱かせる佇まいをしていた。
それは、プレゼント、とよばれた。
「プレゼント?」
あまりにも場違いな単語に、どこから出るのか少し笑った。
「開けてみてよぉ〜」
「…なんの真似?」
「ん〜、いいから」
もう笑えなかった。
わたしは、瞬く間に、それこそあの男よりも素早く、脱ぎ捨てた衣服を集め始めた。
脳髄が揺れ始めた。
「もらってくれないのぉ〜?」
背中からぞっとしない誘いが降って、けれども震えるこの体を、怒りとほんの少しの寒さのせいにした。
ペチッ、おしり(そういえばあの男はわたしのおしりが大好きだった)に何か当たった。
確認するまでもない。
憎たらしいほど無粋なそれを握りつぶす腕力を持ち合わせていれば良かったのだけれど、
「なまえちゃ〜ん、」
「わたしはっ、……いらないわよこんなもの!!」
渾身の力を込めて投げたそれは、やっぱり男をすり抜けて無機質な音を立てた。
アタマが、脳髄が、グワングワン揺れた。
間脳が犯されて涙腺が、延髄が犯されて唾液腺が、小脳が犯されて平衡感覚が、ことごとく崩壊した。
しんじていたのに、裏切られた。
わたしは確かに男を罵ろうとした。
しんじていたのに、裏切られた。
けれど、
「もらってくれないのぉ〜」
男が差し出した箱の中身は、そう本当に目映かった。
シリトンの、ピアス
その輝きに、わたしの言葉はのまれた。
声を取り戻すまで、ずいぶん時間がかかったけれど、わたしは一つだけ言葉を落として部屋を出た。
その瞬間の男の瞳を、わたしは一生わすれることはできない。
大きすぎる男に、まるまる入って浸食した小さなウイルスわたし。
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シリトンのピアス
09/1105
全力で土下座なみさんすみません
リクエストに沿えてる気がしない…ううう