ありていにいうと人見知り、なのかもしれない。
でも自分とそれは違う、と明言できる。
パパには「ハナタレ」と、マルコには「どっちかって言うと、甘えただろい」と言われた。
よく分からないけれど最近1番困っているのは、かつてパパに何度も突っかかっていったやんちゃな2番隊隊長のあの笑顔。

そして今、十数メートル先でマルコとじゃれている彼に、見つからないよう甲板を横切るのに必死である。






彼がツンケンしていた頃は、そんなことなかった。
マルコと一緒に食事を運んだこともあったし、ナースさんが多忙なときは怪我の手当だってした。
仲間だってことを、分かって欲しかった。ここにいるみんな、全員仲間だってことを、知って欲しかった。
きちんと目を見て話したけれど、彼の目に私が映ることはなかった。



それでも彼に向き合う私を見て、マルコは「珍しいよい」などと笑っていた。




それからしばらくたったある日、彼は笑顔を見せ「エースだなまえ、よろしくな」と握手を求めた。
その手を、震える手で握り、よろしくと言いながらどうしてか、絶望したのを覚えている。
天真爛漫で、それだけではなく頭も良い彼が、やんちゃ坊主から人気者になるのに時間は掛からなかった。



私の足のつま先が、彼の方向に向くことも、なくなった。







そんな日々の中で、次第に特等席となりつつあったパパの右側に、いつか彼が笑顔で座っていたことがあった。
突然の事にひどく狼狽した私に、彼は困ったような悲しい顔を向け「悪ィ、おどかす気はなかったんだ」と、人の輪の中に戻ってしまった。
しばらく呆然としている私の耳にパパの「グラララ」が聞こえた。「ハナタレ」も聞こえた気がする。


「鼻水なんか、垂れてないもん」
「グラララ……」






夜、理由もなしに宴は始まり、今日もパパの隣でお酒を飲む。
ナースさんに「船長、」ととがめられるのにガバガバお酒を飲むパパは、やっぱり「グラララ」と笑っている。


「パパー、私もそのお酒ちょっと欲しい」
「はん、ハナタレには早すぎんじゃねぇのか」


そう言ってちょびっとコップに注いでくれた。パパはいつもそうして私に与えてくれる。
お酒も、居場所も、愛も。
これは真理だ、と嬉しくてちょっと笑うと遠くの方で、ひとりぼっちでお酒を飲む仲間がいた。


紛れもない、あの背中は













「久しぶりだな、なまえ」

足音で気づいたのだろうか、それとも気配で、
どちらにせよ、振り向いた彼の顔は、ひどく沈んでいた。


昼間見る、溌剌とした笑顔は今、影を潜めている。


「珍しいね、ひとりでお酒飲んでるの」
「お前ェだって、親父とマルコから離れてんの、珍しいじゃねぇか」


それは、あなたがこんなところでひとりだから、と続くはずだった言葉は、甲板に押し倒された衝撃で、飛んでいった呼吸と共に消えた。

























今日は新月、満天の星空がエースの背景として爛々と瞬く。
少しの沈黙の後、驚くほどの自然さでエースは私の耳を探り当て、流し込むように囁いた。



「ずっと、こうしてみたかったんだ」



なまえの目に、星が映って、俺が映って、そりゃあ綺麗だと思ったんだ、と。
それなのに、お前ェは親父とマルコから離れねぇし、いつんなったら、と。



「いつんなったら、俺の目ェまた見てくれるのかって、な」



むくり、と何かの感情が頭を上げた。むくり、むくり。
それはきっと私の瞳に映るという星やエースの顔を、醜く歪ませていることだろう。
どうしようもない、塩味にしてしまっているだろう。
けれども私は気にせずに、目だけでは満足できずに




「だって、あなた。笑うんだもん」
「………?」
「私なんか、要らないって、笑うんだもん」




星が、エースが零れる、そう思った瞬間、エースの口に吸い込まれていった塩味。
私は、おずおずとエースの瞳をのぞき込むとそこには、



「嘘付け、ちゃあんと見ろ」



私がちゃあんと、こっちを見ていた。






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泣き虫 恐がり いくじなし

((やっと、見たな))

09/0927

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