虫がきらい。
日の光よりも月の光が好きだし、小さい花はいいけど、大きくてどっしりしたのは野蛮でこわい。
果物も、サンジくんが選んだのは美味しいけれど、その辺になってるのを食べることはできない。
土より石畳、運動靴よりミュールやパンプス、リュックよりも甘くて小さなクラッチ。
なのに、そんなこと知ってるはずなのに、ルフィはいつもいつもわたしを誘う。
「おーいなまえ!!探検に行くぞー!!!」
大きな声で、大きなリュックをパンパンにして背負って、大きく口をよこに広げて。
「ルフィ、ごめんね。わたし……」
毎回きちんと理由をいって断ろうとするのに、どうしてもついて行ってしまう、あの笑顔に。
「いいかなまえ、離んじゃねぇぞ」
「ルフィも、わたしのことほっていかないでね」
いつもいつも、へとへとになって、ドロドロになって船に戻るの。
「ルフィ、怒ってるの?」
「………………………」
そんな探検の次の日、ルフィの笑顔がない朝にであった。
「ねぇ、ルフィ」
「うるせえっ」
わたしと話をしたくないようで、朝食も食べずにサニーに抱きついてしまった。
「気にすることないよなまえちゃん」
「……でも、せっかく美味しいお肉があるのに、食べないなんて」
「……ったく、なまえちゃんに心配かけやがって」
あのくそゴム、などと言うサンジくんからルフィに目をやると、小さなおしりと足しか見えなかった。
「……サンジくん、何品かルフィに持って行っていいかな?」
「ルフィ、こっち向いて」
「……いやだ」
「…お肉持ってきたよ」
「うるせぇ、話かけんな」
「………………」
とりつく島もない、こんなルフィは初めて見た。
サンジくんもナミちゃんも「ちょっとへそ曲げてるだけだから、そのうち直る」って言ってたけど。
でもロビンさんは「あなたに来て欲しいって、思ってるわよ」とふんわり笑ってたけど。
虫もきらいだけど、土もきらいだけど、花もきらいだけど………
「わたし、ルフィとの探検は、大好きだよ」
「………………」
「だって、ルフィがたくさん笑うんだもの」
「………………」
「ルフィ、」
口あけて、とお肉のついたフォークを差し出すと、しぶしぶこっちを向いてくれた。
もう一度丁寧にいうと、きちんと口をあけてくれたから「食べて」とお肉を口に仕舞った。
そのまま、いつもからは想像もつかないくらい、しっかりと咀嚼するルフィ。
「上手よ、」とほめて頭をなでると、顔を赤くしてごくんと飲み込んでしまった。
「今度はお野菜よ」と、暖かな温野菜を差し出す。
ルフィはもぐもぐと、しっかり咀嚼する。
「お魚は?」「お水飲む?」「上手、さすがルフィね」と何回か続ける。
再びお肉を出そうとすると、けれども急にルフィに抱きすくめられた。
ルフィは、なにもいわない。わたしも、なにもいわない。
ポンポン、と背中をなでてあやすと、首筋に鼻をこすり寄せてきた。
「俺よー」
「ん?」
「俺よ、なまえが、虫とかでっかい花とかきらいなの、知ってんだ」
「……そうだね」
「でも俺、なまえと探検に行きたかったんだ」
「…そっか」
「虫が出てもよー、花がでかくてもよー、俺が守ってやるんだ」
「……そうだね、いつも守ってくれたね」
「キラキラの靴、ドロドロになっちまうけどよー」
「ふふっ、ミュールっていうんだよ」
「なまえには悪ぃけど、俺、なまえと探検したかったんだ」
「……そっか」
「でもよ、なまえ昨日俺とはぐれたろ?」
「…あぁ、そうだね」
「その後、ゾロと一緒に帰ってきたろ?」
「そうだよ、ゾロが迷子になってたから」
「俺、嫌だったんだ」
「……そうなの?」
「おう、なんかわかんねぇけど、すげぇ嫌だったんだ」
「……そうなの?」
「ん」
「……そっか」
「………だから、ごめんな、うるせぇとか言って」
「……いいよ」
「これからは、ちゃんとなまえがはぐれないように、するからな」
「……うん」
「だから、また一緒に探検、しような?」
「……いいよ」
「……しししっ」
あー、よかった仲直り。
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ほら、食べて
((ふふっ、仲直りできたみたいよ))
((まったく!心配かけやがって))
((サンジー!!もっと肉ー!!))
09/0922