誘われるままに入った部屋には、陳腐な小細工がいたるところに散りばめられてあった。
妙な柄の遮光カーテンばかりが目につき、彼の顔すらもう思い出せない。
「・・・・・・おかえり。」
「、ただいま。」
事を終えて、私の部屋に戻るとクザンの冷たい声が出迎えてくれた。
ドクン、と1つ大きく脈打つ心臓。
「どこ行ってたの。」
「・・・しがない少尉の、お部屋?」
「ふーん、・・・・・・何しに。」
「・・・・・・それは野暮な質問よ、クザン。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・こういうのって世間一般じゃあ、いけないこと、ってなってんじゃないの。」
「・・・こういうの、って?」
「・・・それは野暮だよ、なまえちゃん。」
「・・・そうね。」
「・・・・・・。」
「名前は、なんていうの?」
「・・・何が?」
「しがない少尉。」
「・・・そんなこと聞いて、どうするの。」
「決まってるじゃないの、野暮な子だなぁ。」
「フフッ。」
「・・・ねぇ、名前は?」
「そんなの知らないよ、覚えてないの。」
「・・・・・・。」
クザンの目は今、悲しいくらい真っ暗。
暗い暗い瞳には、憎悪やら嫉妬やら嫌悪やら何より悲絶が含まれている。
私がほかの男とセックスをするたびどんどん膨れ上がる、闇。
そして胸のうちで躍る踊る私の愛。
こうしている間にも、唾液の分泌はますます増し、先から脈打つ心臓も今ははちきれんばかり。
どんなキスよりも囁きよりもセックスよりも、私を満たし恍惚させる、あの目。
クザンにしかできない、私への愛情表現。私はただそれを引っ張り起こすだけなのだ。
この為だけに、生きていると言っても良い。
自傷行為にも似た、がけっぷちでのチキンレース。
「・・・・・・、傷つくなぁ。」
「・・・でしょうね。」
「俺もしちゃおっかな、朝帰り。」
「・・・そんなことしちゃ、取り返しがつかなくなるよ?」
「この関係の?」
「ううん、クザンの。」
「・・・・・・・・・。」
「ねえ、クザン。」
「・・・ん?」
「愛してる。」
「・・・・・・・・・、分かってるんだけどなぁ。」
「うん、」
「・・・・・・・・・、傷だらけじゃねぇの、俺たち。」
「・・・フフッ。」
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チキンレース
((でも、舐め合えるからいっか、))
((フフッ))
09/0831