どれくらいの時間こうしているのだろう。
片腕の船長は恐ろしいほどの力で腰に手を回し、ふくよかで気持ちいいとは決して言えないはずの私の胸に顔をうずめている。
しかし、それは決して甘いものではなく、ほとんどしがみつくと言って良い。
「なまえ」
先からちらりちらりと呼ばれる私の名前、しかし答えてやれない。
その代わり、頭を抱く腕の力をより込め、せめて応える。
こうやって、求められたことは初めてではない。
けれどもきっと、満足な奉仕を出来たことはたった一度もない。
船長室に戻る彼の顔を見るたび、途方に暮れてしまう。
お頭はまるで分かっていない、もう私には与えられるものが、何も残っていない事を。
彼に出会って、まず目を奪われ、彼と暮らし、全てを捧げた。
何をしてくれても、構わなかった。
お頭が笑うのなら、何だってする気持ちでいた。
けれども、私はなにも出来ない。
「なまえ」
腕にいくら力を込めても、応えられていないのは分かっている。
どうすれば、きちんと出来るのだろう。どこまで行けば、笑顔を作れるのか。
私は小さかった。だから、私が出来ることの全てが
「お頭、ごめんね。」
やっとの思いで発した言葉は、どうしようもなく湿っていた。
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距離
でも、きっと彼は分かっている
((満たされないそれでも、愛してる))
09/0822