「お風呂はいろ。」
「……、一緒にか?」
「うん、髪の毛洗ったげる。」
「……いいだろう。」
ルッチがウォーターセブンへ長期任務に赴く前日、お風呂に誘った。
「たまにはお湯に浸かって優雅にバスタイム、っていうのも良いでしょ?」
「……悪くはないな。」
備え付けの大きすぎる浴場の、これまた大きすぎるバスタブは、二人を入れてもまだ余裕がある。
それでも私たちはピッタリくっついて互いの体温を楽しんだ。
自然にクスクス笑いがこみ上げる幸福感と、非現実感。
「さっきから、何がそんなにおかしい。」
「んー…、や、ちょっと今日は、スペシャルだなぁ、って。」
「どの辺が。」
「全部。」
いちゃいちゃ、人目にも私の目にもルッチの目にも、今の私たちはそう映る。
いくら心が曇っていようと、寂しくて暗くて妙な不安があっても、どうしてもいちゃいちゃ。
ルッチが私の肩に顔を埋めた刹那、けれどもどうしようもなく泣きそうになった。
「髪、洗おう。」
「丁寧にソフトに、だぞ。」
「ルッチもそろそろ気になり始めましたか。」
「なにが」
「抜け毛」
バカヤロウ、そういってバスタブからザバリとあがる。
広い肩幅、綺麗に筋肉のついた腕、背中の大きな傷。
適度にぬらした髪に、シャンプーを混ぜ込む。
ルッチの髪はなめらかで、するする指の間を泳ぐ。
「痒いところはございませんかー。」
「鼻が。」
「ご自分でおかきくださーい。」
「ハン」
リクエスト通り丁寧にソフトに、おまけにリンスまでして背中も流してあげた。
ルッチはにんまり満足げで「今度は俺の番だ。」と丁寧にソフトに、おまけにリンスまでして背中も流してくれた。
「なんか良いね、こういうの。」
「まぁ、な。」
「ウォーターセブンにも、ご奉仕しに行ってあげようか。」
「悪くないな。」
ちょっとした笑いが私たちの間に起こる。
けれども、私はきっと行かない。もちろん行っても良いけど、行かない。
ルッチもきっと、望んでない。再会は5年後だ。
お風呂から上がれば、いつもどおり体を重ねるだろう。
もしかしたら幾分か激しいものになる、かもしれない。
けれども、お風呂の中では、どうしてもそれが出来なかった、したくなかった。
*****
そう、どうしようもなく、スペシャルな夜
((いってらっしゃい、ルッチ))
09/0820