狂った世界の始まりは


『不破雷蔵あるところ、鉢屋三郎あり、さ』
『じゃあ、鉢屋三郎あるところ、不破雷蔵あり、だね』
『……!雷蔵大好き!愛してる!』
『はいはい。僕も三郎のこと好きだよー』
最後にそう言って二人で笑い合ったのは、果たしていつの事だったか。


忍術学園を卒業した後フリーのプロ忍になり、やがて任務中に命を落とした僕は、なんの因果か平成の世に再び不破雷蔵として、前世の記憶を持ったまま生まれ落ちた。
五歳の時にハチと再会して、七歳で兵助と、十歳で勘ちゃんと再会した。
そうしてまた時がすぎて、三郎に会えないまま、僕たちは十四歳になった。


だけど四月の桜が満開だったあの日、街ですれ違った男子学生。それは間違えるはずもない、大切な片割れ、鉢屋三郎で。
頭が考えるよりも先に、僕の手は三郎の腕をガシリと掴まえていた。

「三郎!やっと、やっと見つけた!」
「…は?アンタ誰だよ。確かに私は鉢屋三郎だが。」
「え、三郎、僕のこと…覚えてないの?」
「覚えてないも何も、そもそもアンタとは初対面だろう。人違いなら私はもう行くぞ」
「…っ、待って!」
「…まだ何か?」
「えと、その、僕…」
「あのさ、私急いでるんだけど」
「あ、の…ごめん、知り合いに似てたものだから…。で、でも…これもきっと、何かの縁だと思うんだ、…もしよければ、」「断る」
「…え、」
「どうせ『仲良くしよう、友達になって』だろう。私は、お前みたいに馴れ馴れしい礼儀知らずが大嫌いなんだよ。わかったらもう関わってくれるな」
「待…っ、三郎!」
「初対面のお前に名前を呼ばれる筋合いはない」
それっきり、どれだけ探しても三郎に会えることはなかった。
それがループの始まり、一回目。

二回目は、三郎に会えないまま終わった。三回目は同い年の幼なじみとして生まれて、だけど最後まで理由もわからぬまま嫌われ続けて、四回目は、五回目は、六回目は…。

終わりのないループ、三郎は僕たちのことを思い出す気配はない。親しくなることすらもできず、繰り返す時間。

それから十と数回目、ふらりと僕たちの前に現れた三郎は、忍たまだったころの記憶をもっていた。
これでようやく、元のように五人で…

「なあ、八左、兵助、勘。私にそっくりなコイツ誰?」

あ、れ。

ぐちゃり、何かが潰れる音がした。



この高い場所から見下ろすのは、皆にとっては『鉢屋三郎』が、三郎にとっては『不破雷蔵』がいない歪な世界。

ああ、三郎。
やっと僕のこと思い出したんだね、嬉しいよ。
だから、君も傷付けばいい、苦しめばいい。
そうしたら、僕はボロボロになった君を愛してあげるから。


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