俺とアイツ
突然だが、俺、潮江文次郎には前世の記憶がある。
今より4、500年前の、日ノ本が統一される前、戦が絶えなかった頃の記憶である。
とは言え、前世の全てを覚えているわけではない。
覚えているのは、『忍たま』として忍術学園で過ごした六年間の記憶まで。
だから卒業後の記憶が全くなくて、忍者を目指していた自分がどうなったのかも、何故死んだのかもわからない。
まあ、自分の死に様など知る必要もないのだが。
はじめは前世など信じておらずただの夢かと思っていたのだが、どうやらそうではないらしく、ちらほらと記憶を持っているやつがいたことから、その記憶が前世のものであると理解したのだ。
さて、問題はここからだ。
俺は初めに潮江文次郎だと名乗った。
それは間違いではない、俺の現世での名前なのだから。
しかし、だ。
しかしどういうことなのか、俺が持つ前世の記憶は『食満留三郎』のものなのである。
唐突だが、俺は食満留三郎であって食満留三郎ではない。
俺には前世の記憶というものがあるのだが、どうやらその記憶はかつて忍術学園一忍者をしていた、『潮江文次郎』の記憶のようなのだ。
さて、そこで疑問に思ったことがひとつ。
本来俺は前世でも現世でも『食満留三郎』であり、記憶だけが入れ替わってしまったのか。
それとも『潮江文次郎』が本当の俺であり、魂とやらが間違った体に入ってしまったのか。
きっと俺にもあいつにも一生わからない問題なのだろうけれど。
いずれにせよ現時点で支障があるとするならば、互いを名前で呼びあうことができないことだろうか。
確かに今は俺が食満留三郎でアイツが潮江文次郎だが、なんだかしっくりこないからだ。
まあ、別にわざわざ名前で呼ぶ必要性はないわけだから、ほとんど支障などないに等しいのだが。
ドタドタと部屋に近づいてくる足音に、算盤を弾く手を止め息を吐く(電卓より算盤の方が手に馴染むのだ)。
俺が本当は誰であろうと、今はどうだっていい。
とりあえず生徒会会計委員長として、不必要な予算引き上げ要望をばっさり斬って落とすだけである。
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