ジングルベルは雑音と化す


※伊作が黒い
※食満が酷い、潮江が乙女
※文留のつもりが、気付けば留文に。





地球温暖化が進んでる、なんて言っても、この時期はやはり凍えるように寒い。
12月でこの寒さなのだ、年を越してからが寒さのピークだなんて考えたくもない。
白い息を吐きながら、街路樹に施されたイルミネーションを見遣る。
単調な点滅を繰り返すそれは、しかしそれだけで街の雰囲気をガラリと変えてしまう。
スピーカーからはジングルベルが延々と垂れ流されていて、今年もついにこの時が来てしまったんだと認識させられる。

「明日はクリスマスイブか…」

そう、明日は12月24日、世間ではクリスマスイブと呼ばれる日。
僕の隣でポツリと呟いた留三郎は、チカチカと点滅を繰り返す街灯を見上げてハアアァ、と深い溜め息。

「イブだねぇ…。今年も僕らは負け組、か…」

「おま…っ、負け組って言うな」

「あーあ、彼女欲しいなぁ。僕の不運を打ち消すくらい強運な彼女」

今まで彼女が居なかったわけではない、ただ皆、僕の不運に嫌気が差して一月と持たず去っていくだけだ。
単純に付き合った女性の数ならそれなりにいるのだが、クリスマスに彼女がいた試しがないのはどういうことなんだ。
きっと僕の不運を打ち消すくらい強運な彼女が出来たなら、全てが解決される気がする

「…伊作、んなこと言ってっと一生クリスマスは独り身だと思うぞ」

「ちょっとそれどういう意味!」

僕の不運は覆せないとでも言うのか。
…まあ自分でも無理なことはわかってるけど。

「さあなー。…って、ん?文次郎?」

留三郎の言葉に後ろを振り返ると、そこには確かに文次郎の姿。
小平太程でなくても体力バカな文次郎が息を切らしてるって、一体どれだけ走り回ったんだろうか。

「留三郎、おっまえ、な…電話は出ねぇわ、メールは無視するわ…俺が何度連絡したと…!」

まさかそれで何処にいるかも解らない留三郎を走り回って探していたとでも言うのか。
…阿呆だ。阿呆すぎる。

「あー、悪い、気付かなかった。…で?」

「え、あ、…明日か明後日、予定空いてるか」

「空いてない」

「…空いてるよな?」

「だから空いてないっての」

「…え、でも、」

「そもそもなんでクリスマスをお前と過ごさにゃならんのだ」

「おまっ、言うに事欠いて…!」

「俺はお前と違ってとっくの昔にクリスマスの予定埋まってんの。お前は家で一人で寂しく寝てれば?」

「…っんの、留三郎のばかたれええええっ!!」

最後に拳をひとつ、振りかぶる動作の大きなそれを留三郎が難無く避けると、文次郎はバッと背を向け元来た道を走り去って行く。

「あ、逃げた。追いかけなくていいの?」

「いいのいいの。あ、イブとクリスマスは、」

「はいはい、どうせ文次郎ん家に行くんでしょ。」

「お前…実はエスパーか」

「何言ってんの。だって去年も一昨年もずっとそうだっただろ」

そう、毎年のこと。
文次郎はクリスマスになると留三郎を誘って、留三郎は毎度それを断る。
そのくせ当日になればケーキやら何やら持参で文次郎の家に押し掛けるのだ。
正直見ていて面倒臭く、かつ鬱陶しいことこの上ない。

「まーな。…にしても、やっぱりあいつの傷付いた顔ゾクゾクする」

「はいはいちょっと黙ろうかー」

ていうか、どうして文次郎はこんなのを好きになったのか理解できない。
さらに言えば、どうして僕はこんなのと友達を続けてるんだろう、なんて思ったり。

「じゃあまたなー、伊作」

「うん、またね」

そして結局のところ、負け組は僕一人なわけで。

「あーあ、彼女欲しい」

…あれでいて文次郎と留三郎はまだ付き合っていないだなんて、そろそろ本気で鬱陶しい以外にない。


―――――――――――
元ネタはTwitterの診断メーカー。

【好きな人「クリスマスってなんか予定ある?」 留三郎「あるよ」 好きな人「この裏切り者!」 好きな人はあなたに殴りかかってきた!】

…なんだか解釈を間違えたようで…、どうしてこうなったとしかw



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