「おーい、雷蔵、三郎!」

三郎と二人で食堂に行けば、ハチが僕と三郎の分の定食まで準備して、出入口から一番離れた席に座っていた。

「お前らが遅いからさ、先に食っちまおうかと思った」

そう言いながらご飯を口に頬張るハチに、軽くごめんと謝りながら苦笑い。
いつも一緒に朝食を食べるい組の二人は、今日は実習があるからととっくに朝食を済ませて学園を出ているらしい。

普段より少し時間が遅い食堂は、それでも生徒たちでごった返していて騒がしい。
少し冷めてしまった味噌汁をすすって、ほぅ、と息を吐いた瞬間両肩に衝撃。
思わず悲鳴を上げそうになる口を押さえて振り返れば七松先輩が僕の肩に手を置き、ニコニコと笑っていた。

「え、と…七松先輩?何か御用ですか?」

「ん?いや、用と言うわけではないんだがな!」

ニコニコニコニコ、真っ直ぐに見られていてはどうしようもない。
両脇に座る二人にも困惑した視線を向けられる。
気づかないうちに七松先輩の気に障ることをしてしまっていたのだろうか、しかしそれにしては様子が違うように思われた。

「…七松先輩?」

再度声を掛ければ、「うん、やっぱりな!」となにやら一人で納得していて、肩に乗せられていた手が外される。
一体何なんだと首を傾げれば、先輩はやけに楽しそうに笑っていて、それに反比例するかの如く右隣に座る三郎が纏う空気が冷たくなる。
理由はわからずとも、これはちょっと不味いかもなんて思ったその時だった。

「うん、やっぱり不破に長次は勿体なさ過ぎるな」

今日はいい天気だな、と言うように紡がれた言葉に一瞬思考が停止する。

それほど大きな声で言われたわけではないそれは、喧騒に紛れてハチにははっきりと聞こえなかったようだった。
けれど、僕と三郎の間に立つ先輩の声は、三郎にはしっかりと聞こえていて。

「…それで、言いたいことはそれだけですか?」

「…三郎?」

「ははっ、なんだ鉢屋。怒ってるのか?」

いつもは飄々としている三郎が、殺気を込めて自分を睨み付ける様に、クツリと喉を震わせた先輩は、心底可笑しそうに笑った。

「お前は、本当に…本当に、不破が大好きだなぁ?」


ガッシャーン!
食器が粉々に割れる音、僕が気付いたときには三郎が七松先輩の胸ぐらを掴み上げていた。

「お、何だ?やる気か?」

「ちょっと三郎落ち着いて!」

「いきなりどうしたんだよ三郎!」

僕とハチが声を掛けても、三郎は先輩を睨み続けるだけ。
いつのまにか騒がしかった筈の食堂はシンと静まり返っていて、全員の視線が此方に集まっていた。

ピリピリとした空気にぞわりと肌が総毛立つ。
少し離れたところで食事をしていた下級生たちは今にも泣き出しそうな様子で身を縮ませていた。

僕自身どうすればいいのかわからなくて、ぐっと拳を握り締めた直後、

「あんたたち、何やってるの!」

食堂のおばちゃんが厨から顔を覗かせて声を上げた。
チッ、とらしくなく舌打ちをした三郎の手を払い退けた先輩は、「騒がしくしちゃってごめん、おばちゃん!」と言うだけ言って食堂を飛び出して行った。

「あらあら、食器、割れちゃったのね」

「すみません、今僕が片付けますので、」

「全く…もうすぐ授業が始まるから、早く行きなさい。後は私が片しておくから」

さ、皆も急がないと授業に間に合わないよ!

その言葉に慌てた生徒によって再び騒がしくなる食堂。

「…すみません」

もう一度謝って、僕たちも食堂を出る。
三郎はずっと黙ったままで、ハチも先程から何やら考え込んだまま。

重い空気にそっと溜め息を吐きたくなるけれど、僕はそっと飲み込んだ。
僕に溜め息を吐く権利なんてないのだ。
三郎がここまで怒った理由はわからずとも、その原因が自分にあるということはわかっていた。





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