もういいよ




「いてて……っ」


なんとなく想定の範囲内。最近なんでか箱庭という空間ですら色々としてやられている。
ものが無くなったり、とかいうことではないけど、まぁ、後ろ指を差されるのと、さりげなく足を踏まれたりなんたり。
生傷が微妙に絶えない。こら困った。


「……はぁ」


それでもやっぱりこの状況から逃げるわけにはいかないと言い聞かす。俺には草薙も尊もいる。二人にだけは被害を出してはいけないから俺が立っていなければいけない、のだけれど


(……ちっとばっかし、しんどい、かも……)


屋上はあまり好きじゃない。高さが中途半端だから。そんな屋上に珍しく俺一人で身を乗り出す。
決して飛び降りようとしているわけでは、ない。
まぁ、飛び降りたところで俺は精々足の骨を折ったりな気がする。
へんな頑丈さがありがたい限りだ。


「……つら、いな……」


まるであの世界の二の舞で。
俺の大嫌いな大嫌いなあの空間を思い出す。


「冷慈さん!!」

「!!た、尊……んなに慌ててどうし」

「た、じゃねぇよ!あぶねぇだろ!死ぬ気か!?」

「お、おおう、悪い……死ぬ気はねぇけど……」


死ぬ気ではない、ことを言えば尊は全速力で来たことを物語っていた荒い呼吸を沈めるように深呼吸をした


「焦らすなよ……心配したんだかんな!」

「お、おぉ……」

「……」


何やら穴でもほげそうになるぐらいジィっと見つめられて、他人と目を合わせるのが3秒が限界な俺はそそくさと目をそらす。
そうすればまたそっちへと来て俺の目をジッと見るからどう対応すればいいのかわからない

困り果てた俺をよそに尊は口を開く


「なんで……俺にも何も言ってくれねぇんだよ」

「え」

「全部、知ってんだよ……!さっき、見ちまったから……。なんであんな風に後ろ指差されても、俺にも草薙にも何も言ってこねぇんだよ!」


ガッと胸倉をつかまれて真剣に怒鳴られる。
そんなことが理由で怒鳴られたのはきっと初めてで。


「……、俺は、言っちゃいけないから」

「あ!?」

「……"助けて"なんて言ったら、全部、意味が無くなる……」


ただ、双子も宋壬も、尊も、草薙も、守りたいだけで、全部を背負い込んででも守ると約束したから。

だから……。


「……そうやって、ずっと、一人で全部背負い込んで一人で立ってたのかよ……!俺のだって、冷慈さんのこと守れんだぞ!もっと吐けばいいだろ!俺にぐらい!」

「……」


揺さぶられるように叫ばれたその言葉があったかくて痛いから、でも泣き顔なんか見せたくないから、ギュッと尊を引き寄せて顔をうずめるようにして、泣いた。


「っ……っ」

「……」


戸惑っているように壊れ物でも扱うかのようにゆっくり撫でられて余計涙腺が決壊する。


(止まり方がわからないんだ、どこにも休息所なんか見当たらないから)

(もう、止まっても、いい?)






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