チョコレゐト




「冷慈さんのほしいもんってなんなんだ……」

「私も聞いたことないです……」


季節が冬になった頃、またアポロンの唐突な発言でバレンタインデーとかいう行事をすることになった
俺と草薙は冷慈さんに渡すことにしたわけだが……


(回想中)


「はぁ?バレンタイン?……する必要なくね……?」

「カゼカゼ!そんなこと言わずに!言わずにやろうよ!」

「……俺、そこまでチョコ好きでもねぇし、面倒だからいらんしやらん」


(回想終了)


こんなザマだったのだ
よって渡すとなればチョコ以外のものになってくるけど、冷慈さんの、ほしい物なんて俺が知っているわけもなく、途方にくれているわけだ


「くそー……何がいいんだろうな」

「ですね……」


草薙も思いつかないのかため息をついている


「……お前等、それを俺のいるところで言っちゃダメだろ」

「「冷慈さん!!」」


いつからいたのか、すぐ後ろに若干呆れている冷慈さんが立っていた
これはもう本人に直接聞いたほうが早そうだ


「なぁ、冷慈さん……」

「いらねぇよ、なんも。俺も用意する気もねぇしな」


あくびをしながらだるそうにそう言う姿はこういうことによほど興味が無いんだということをあらわしていた


(これって人間にとって割りと大事な行事じゃねぇのか?)

なんかあにぃがそんなことを言っていた気がする


「ほらほら、無駄話もいいけど帰んぞ」


スタスタと歩いていってしまう冷慈さんを慌てて草薙と追いかける
なんかほんと変なところで枯れてるっつううかドライな人だと思う
おれならもらったら嬉しいんだけど


「だいたい何がバレンタインだ……する意味がわかんね……」

「でも冷慈さん、好きそうなのになー。ほら、菓子だって作れるんだろ?」

「まぁ……得意じゃねーけど」


あぁ、得意じゃないから、ノリ気じゃないのか
い、いやおれだって別にノリ気ってわけじゃなくて、なんつうか仕方なくというか


そんなこんな悩みながら、気づけば、当日になってしまっていた


(結局何も用意してねぇ……)

1限目が始まりそうな時間になっても空席のままの冷慈さんの席を見つめる
いつもならもう来て、寝てんのに


「授業をはじめる……おい変人。奇人は休みか」

「あー冷慈ー?なんかしんないけど朝からグロッキーだったから今頃くたばってんじゃない?なー莉子」

「うん。まじうるさかったです」


冷慈さんの姉ちゃんと妹がそう言っているということはよっぽどなんだろう
あとで見舞いに行ったほうがよさそうだ。と思ったときだった
ガタンと激しくドアがあいて、そこには全力で走ったから、肩で息をしている冷慈さんがいた


「おい、貴様。私の授業に遅刻とはいい度胸だな」

「ハァ、ハッ……はぁ……」


まるでトトの話も耳に入っていないらしく、ゼェゼェ言いながら、そのまま自分の席にいって、死んだように眠った
え、冷慈さん、アレ大丈夫なのか

授業も終わってから、冷慈さんのところへいけば、今だ眠ったままの冷慈さんがうなされている
どんな夢を見てるのかさっぱりだが、割りと苦しそうだ


「もう、やめ……ろ……あああああ……だめ、チョコ甘い死ぬああああ……うげえぇえええ……」

「……草薙、これは起こすべきか?」

「……寝かしておいてあげましょう」



(寝ている冷慈さんから、すごく甘い甘いチョコの香りがしたのはなんでだろう)










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