狂ってしまいそう




「ねぇ、グルーガン先生。貴方には枷はついていないんだよね?」


音楽室で唐突に聞かれた。確かに俺には枷はついていない。教師だし俺は神話上人間に対して特に悪い過去があったわけでもない。
つける必要がないんだ


「ついてないけど、それがどうかしたかな」


あくまで生徒であるコイツに対して特別な扱いなんかする気は更々ないのでいつも通り上っ面だけで"人間のいい教師"を演じている


「なのに、どうしていつもピアスをしているのかなって思っただけだよ。いつもしているでしょ?」

「……あぁ。コレ、ね……」


人間のフリをしているときに、愛してしまった人間にもらったただひとつの形見
この手で殺してしまったけれど
"たまには神様を信じないと、ダメよ"なんて、俺が神だと知っていて言っていたのか、それとも俺に騙されていたのか


「一体誰にもらったの?そんなに大事そうにしているけど」

「……誰だったかな」

「……ねぇ、今の貴方の目には私は写ってる?」


俺よりも少し低いそいつは何かを確認するかのように俺の目を捉えて離さない
でも、きっと俺の目を見てもわからないだろ?くすんでる淡い黄色なんて色なんだから


「教えて、グルーガン先生。私には時間がないんだ貴方に愛してもらえないなら意味もない」

「……そう。我侭な生徒だね」


どうしてそんなに俺を求めるのかが不思議で仕方ない
そう思いつつも、手はスッとバルドルの頬を撫でている


「……」

「グルーガン先生。ねぇ、私だけを見てよ」

「……。教師に何言ってるのかなお前は」

「ねぇ、ダメなの?先生」

「……さぁね」


(その病んだような表情に毒される)





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