兎にも角にも




「おい、今日も行くのか?」

「あぁ。そのつもりではいるが」

「あ、そ」


今日は朝から天気もいいし夜も晴れるだろう。絶好の天体観測日和だ。俺も星を眺めるのは嫌いじゃねぇが、好き好んで見に行くことは少ないほうだ


「…………」


3秒くらい、考えて俺の城である保健室を施錠する。どのみちあと10分程度で下校時間だからな。早めに切り上げても問題はねぇだろ
鍵をかけて、その足で自室まで戻る。ちなみに俺は生徒に紛れて寮でグルーガンと生活をしてるわけだが、これがアイツと同室なのがいただけん。


「さて、着替えてからたまには、な」


天体観測とやらに行ってみるか。一人で時たま空を見上げても、ちゃんと見てはない。おまけにゼウスの作った箱庭だ。人間界よりも遥かに星は綺麗だろう

(そう考えたらもったいねぇことしたな)


一度自室に戻って着替えてから外へと向かえば、暗い中もうハデスがきていた


「相変わらず暗闇が似合うな」

「……何故、来たんだ。俺の側にいると」

「不幸にはなんねぇから安心しろ。大体不幸だとかそうそう思わない質なんでな」


無数に輝く星を見上げて、息をのんだ。綺麗というありきたりな言葉で終わるようなものじゃない
言葉にできないほどのその光景に思わず見惚れる


「……柊が星を見るのは珍しいな」

「あぁ。これほどのもんならもっと早く見に来ればよかったな。お前もいるしな」


俺らしくないような言葉を言うほどには、この景色に魅入られているらしい
星が瞬いて、青白く輝く満月が辺り一面を照らすその光景は、盗んだバイクで走り出したくなるような……いや、違うな。なんでもないぞ。俺はそんなおっかないことはしねぇからな真面目だったしな。まぁ、嘘だが


「サングラス邪魔だな……」

「つけたまま見てたのか?」

「もう俺の眼球みてーになってんだよ」


そういえばと、つけていたサングラスを外して頭のほうにかけておく
あれだ、ヘアバンドの容量だ。サマーバケーションっぽいやつだとか麗菜が言ってたが

裸眼で星を見るとさっきよりも当然輝きが増して見えて、つい表情が緩んだ
そのときに、視界に入ってきたハデスがそっと俺に口付ける


「…………大胆だな」

「なっ、そ、そうではない」

「へぇ?じゃあ俺からもしてやろうか」



(お、やっぱ雨降り出しやがった。……帰るか)









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