Prologue
「さいしー!」
いつもと同じように俺の双子の彩詞と小学校の帰り道を歩いている夢を見た。
目の前を通って駆け抜けていった、キラッと光った何かを見つけた彩詞が走っていってしまう
「あぁああああああああああああ!!!!!!!」
俺の喉がかれるほどの叫び声がして、つい、手を伸ばした。その先にあるのは、赤い塊の何か
「さいし、さいし……っあ、ああぁああ……いや、いやだ」
何度泣き喚いても、それに触れることすら、できずに立ち尽くした。
小さな頭じゃ、どうすればいいのかもわからない
立ち尽くして、ただ呆然と泣いていた俺のすぐ向かい側、青い髪の同い年くらいの誰かが、俺を見て悲しげに微笑んでいた。
その指が、小さな俺を指差した、その瞬間ー……
「ぁああああ!!!!」
思わず飛び起きて気づく、あぁ、夢だったのか。と。
その証拠に俺の部屋の戸がノックされ、彩詞が俺を呼ぶ声が今日もちゃんと聞えてくる。
ほっとして、そのドアを開ければいつも通り、俺の大事な、大事な彩詞が立っていた。
「大丈夫?今叫び声が聞こえてきたから……」
「ごめん、大丈夫、ちょっとさ、俺が死ぬ夢見てた」
「え!?大丈夫だよ哀詞はちゃんと生きてるから」
その手が俺の頬をなでる。あぁ、安心する。あんなのが夢で、よかった。と溜息をつきながら着替えて、準備をして、姉ちゃんの作っていた朝飯をかきこんで、家を出て行く。
姉ちゃんの作る飯は嫌いじゃない。なんだかんだ今日もうまかった。
言うと調子にのるから言わないけれど。
「あ、哀詞、戯くんだよ」
「げっ」
家を出て、向かい側の横断歩道、俺に向かって笑顔で手を振ってくる友達が一人。
茶髪でちょっとなんかツンツンした頭でいっつも真っ赤なパーカーを着た俺の友達。
ちょっと迷惑な奴でもある。
「哀詞ー!」
よっと、ガードレールを飛び越え、奴は右も左も見ずにこっちへ来ようとする。
「おい!!」
俺の叫び声に被るように盛大なクラクションの音がして、立ち尽くした俺の前、そいつが、跳ねて地面へ叩きつけられていた。
「……っ、ざ、戯!!おい!!やめろ!しっかりしろ!」
いっきにフラッシュバックしてきたあの悪夢を払うようにその友達に駆け寄れば、血にまみれたその手は俺の頬をなでる。
「あは……ごめん、ねェ……そんな、顔、させる、つもりじゃなかったんだ、けどォ……」
いつもよりも、ふざけた口調で、まるで別人のような雰囲気で、そいつは俺のことをいつも違う呼び方で、呼んだ
「"あーちゃん"、だよ、ね?……あはは、やだ、なァ、泣かない、でよォ」
悪童 戯。名前通りのアホで、でもなんだかんだしっかりした一面ももっていた俺の友人のはずなのに、今、俺が抱えたこいつは、一体、誰だろう。
「哀詞……ねぇ、哀詞、また、あんなことしないでね」
「え!?」
真後ろから聞えた彩詞の悲しげな声のほうを振り向けば、そこには、誰もいなかった。
彩詞、彩詞はどこにいったんだよ、とキャロキョロとあたりを探しても、いない。
「……なん、なんだよ……!!」
泣いて血まみれの戯にしがみつけば、向かい側、オレンジ色の髪をした、和服を着た目つきの悪い、誰かが立って、俺を見ていた。
「こんな、こんな現実、知らなきゃよかった」
悔しそうに悲しそうに呟かれたその声は、俺の声だった。
「哀詞、その子も助けたいでしょう?」
「っ!?」
不意に聞えた女の人の声にまた当たりを探しても、それらしき人はいない。
「早く、こっちよ」
グラグラと視界が回りながらゆがんで、気が遠くなっていく。
視界の隅で、あの夢に出てきた青い髪の人が泣いていた気がした。
(起きたら、全て忘れて元通り、ならいいのに。これも夢でいいのに)
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