悲しい一人と一匹
「ワシとしたことが本題からそれてしまったな……。ルア、よく聞け。こいつが、お前が司る青龍だ。今日から、一年、お前には、"青龍神"になるために神と愛を学んでもらう。無論、お前はもう愛というものを痛いほど知ってはいるだろうが、まだ、成長できておらん、ようだからな」
「……、アンタ……どこまで、知って……」
恐くなった。俺のことをすべて知っている、というような口ぶりをしているこのおっさんが。
せっかく俺が、見つけた、逃げ道をすべて壊せと言っている様で、息苦しかった
「……そう、恐がるな。神に知らぬことなど、ない。もうひとつ、お前には学んでもらわねばならんことがある。……その、動いていない、お前の時間を動かすのだ。どんな時でも、笑顔でいることは、いいことではあろう。だが、お前のように、偽りの笑顔では何も……」
「っるせぇ!!」
もうやめてくれ。それ以上、俺のことを踏み荒らすのは。と声を張り上げれば、不意に左顔面が痛くなった。
よく見れば服装も、来たときのツナギではない。まるで中国じみた、服装。
ちらりと見えてる、この一瞬で異常に伸びた髪の毛は龍と同じ青い色。
「……なんだ、これ……」
「……ほう。神化したか。それがお前の青龍神としての姿だ。流石、彼奴らの息子、といったところか。人間といえど、計り知れぬほどの加護をつけられていたのだろう。両親へ感謝するといい。だが……」
フッと光ったものは俺の左耳へ飛んできた。そこには太極図とか言う模様の丸いピアスが引っ付いてしまっていて、とれなかった
俺の姿も最初のツナギで、襟足もいつも通り短い外向きダックテールだった。
「神の力は今の人間であるお前には非常に強すぎるものだ。よって、枷によって封じる。お前が様々な愛の形を理解し、そして成長をすることで、おのずと枷は外れる。……枷が外れなければ、お前はこの神々の学園を卒業することは許されない。当然それは、今この学園にいる他の神々も同様だ」
「……、んな、無理難題だぜ?俺、大人には、ならないんだよ」
大人になれません。早田ルア、二十歳ですが、何か。
そう、永遠に、俺はこのままなのだ。いくつになろうとも幼馴染である麗菜や美月、小柚希ともこのまま、誰も死んだりしないのだ。
そう、信じている。
お前の脳みそはネバーランドか。とよく言われるが、それが事実だ。
何が、楽しくて、大人にならなければいけないんだ。
行く先には死しかないというのに。
「俺、ずっと、ネバーランドの住人なんだ」
「……、この学園で学べば、考えも変わる。いや、変えろ。世界の破滅を防ぐためにも」
「……興味ねーのよ、世界には」
大事なのは、俺の気持ちなのだ。他人では、ない。
今でも、忘れることはない。俺の気持ちを無視して、選択を間違えた、俺の父さんを。
そのせいで、どんな形であれど、死へと歩んだ、優しいあの人も。
あぁ、どうか、もうそんな悲劇が起きませんように。
「……まぁ、良い。それにしても、すっかり、懐かれておるの。青龍に」
ゼウスのおっさんの言う通り青龍という幻の存在は今度は俺の周りをクルクルと螺旋を描くように回っていた。
あぁ、なんでだろう、悲しそうに見える
「……お前も、俺と一緒か?」
そう聞いてなでるように手を伸ばせば、素直に俺に撫でられてくれた
「……彼奴は、幼き頃、その力を恐れられ、殺されかけた。その際に、親であった龍がそれを庇って死んだのだ」
「……そっか。そら、大変、だな」
(あぁ、世の中の愛の形は俺には理解ができない)
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