起きる気配
「……どこだ、ここ……」
ふわふわと宙に浮いているような感覚。でも、下を見れば湿原のような場所に俺は足をしっかりとつけている。
なんとなく足についてる水の冷たさを感じる。
周りにはよくお盆の時期に出される提灯についている模様のような花が無数に咲き乱れているある意味幻想的な世界。
俺とは縁もない世界。
(そういえば、俺、なんでこんなところにいるんだろうな……)
いまいちなんで俺がこんな場所にいるのか思い出さない。
頭の中は真っ白で、思いだそうとも思わない。
(……綺麗だよなぁ……)
浸る水を足でバチャバチャと動かし、遊べば水は当然のように重力に逆らって落ちていく
まるで悪あがきをする俺のようだ。
今はまだ、まだ、死ぬわけには。と思いながらももしかしたらもう俺が限界かもしれない。と思うところもあった。
そんなことを考えていれば真っ白だったはずの頭の中にたくさんの色がつきだす。
どれに出てくるのもなんでか紫色と青緑みてーな不思議な優しい色で、何かを忘れていることを思い出す。
はてさて、俺はいったい全体何を忘れているのかと、思い出すのに夢中になるように足をひたすらに進める。
歩けば何か思い出せるかもしれない。
『……ルア……頼む、オレを……一人にはしないでくれ』
どこからだかは知らない聞いたことのある声が俺を呼んでいて、足を止める。
聞き覚えがあるんだけどな。と思い返そうとすればするほどわからなくなる。
でも、このまま死ぬのかと思うと胸が痛いのなんのって。
おかしいな、俺は元々ノンケのはずだ。なんて思っていれば、やっと思い出したのはトールさんとのなんでもないくだらねぇ日常で。
残りの人生きっと少ないと悟った俺は何もかもをすっ飛ばして付き合ってくれなんて突拍子もないことを言って。
どう思われていたのかは知らないが、今、こうして悲しんでくれているらしいトールさんの声を聴いて、また胸が痛かった。
(早く、戻らねぇとな……)
そう思った瞬間だった、不思議な空間に落ちてきたのは雷でそれはあっさりと俺を打ちのめした
「……ん……っ」
ゆっくり、でも何かに急かされるように目を開けばトールさんが見えた。
「……よかった。……もう、目を開けてくれないかと思った」
まだしっかりと動き出さない頭で聞いた言葉は、俺が思うにセンチメンタルを通り越した不安げさを残す声。
あぁ、なんだこんな顔が出来たのかこの人は。
「……」
まだうまく喋れないくらいにはフワフワとした意識で、軽く微笑んだ。
(大丈夫。な?)
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