ここが運命
(あーもう今日か)
いよいよ病院にいく日になったわけだが柊さんいわく時間は真昼間らしい。
ちなみに俺の腹時計が告げる、ただ今午前四時あたりです。
(……よし)
一応自分の寮部屋で寝ていたおかげで今日は柊さんの監視はない。
それにくわえてまだ時間はある。
こっそり外に出て、人気のない場所で携帯をとりだして俺に聞こえるぐらいの音量で音楽を流す
どうせ一時ろくに体動かせやしねーから
その曲独特のリズムに合わせて動く
ただ、楽しい。
もうできなくなるだろうから、ひたすらに無我夢中で
だから、気づかなかったし、うっかりしていた
「……朝から、悲惨だった」
「おれも……」
「うん……」
俺が一人で時間も忘れるほど体を動かしている午前8時ごろ。
まさかそんなことになっていようとは
「白虎に起こされてなんでいんのかと思ったらなんでか青龍が見えたのは頭のおかしい麗菜さんだけです?」
「大丈夫ですぅ美月ちゃんも見えましたですぅ」
「……私にも見えたぞ、幻獣と呼ばれし青き龍が」
「「流石にいさん。スタイリッシュ」」
気づきもしないうちに、神化をしていたらしい俺はそのまま最後を楽しんでいる。
上空に青龍が放たれていたようで、春を司るだけあってかあたりを一面桜に染めていた
あと気づいたことと言えば、それ以外、俺のいるところ半径100mより外はどうやら雨がシトシトと振っているようである。
これが最後の馬鹿力。なのか。
「……うお、いつの間に桜咲いてたんだ。つうかまたこのカッコ」
集中力がふと途切れたときに自分の襟足の異常な長さと色に、思い出す
そうか、神様見習いなんだっけ。
神様たちがあまりに人間と同じでスッカリここ最近は抜け落ちていた。
(なんか、学べって言われてたけど、なんだっけ)
そんな大事なことをまぁいいか。と流して俺は木陰にゆっくり座り込む
休憩せねば
「……帰って、これると、いいな……」
無理だということは本当はわかっているけれど、そう口に出せば、もしかするともしかするかもしれない。
人間の底力、そんなものがあるかもしれないから。
「……何言ってるんだお前。あと一回、一回だけ帰ってくるぞ」
「……!?!?」
急に背後から出てきた柊さんに思わず飛びのいた
あぶねぇこのおっさんまじあぶねぇ
「あと、一回帰ってはくるが……、まぁうまくいけば、だ」
「……え、っと」
「リンパの悪性腫瘍をとって、体調が安定すれば、な」
「……」
なんだ、あと一回、チャンスはあるのか
「……」
(それはひどく悲しい意味のない希望だと俺はわかっている)
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