黙っている時間

生徒のいなくなった学園長室で、何かを思いだすかのように立っていた少彦名大神の後頭部を天の錫杖が強く当たった


「っ、いったいな……」

「一個、だーいじなこと言ってねぇんじゃねぇか?このおボケジジィめ」

「お前も変わんないでしょ……」


黒い笑みを浮かべ錫杖を、また殴るぞといわんばかりにカツカツと鳴らしながら天は神の姿で浮遊していた
なんとも自由な神だ、とゼウスは天を呆れながら横目に口を開いた


「……彼奴の存在を伝えなくてもよかったのか」

「……いいんだ。もう、起きちゃったから」

「……」

「な……」



「アリーナがいないと、あいつは負けるだろうからね」


「……彼奴が……大天使、ラファエルが目を覚ましたということは、それだけ時間がないということだろう。奴は癒しの天使だ」

「……ゼウス、ユウジ、俺、思うんだよね。


悲劇は


繰り返すものじゃない?」



「おー、そうだな」


「ワシには理解できんな。そうならんように、彼奴を呼んだというのに」



まだ知らないのは当の本人だけ。
大天使ラファエルと少彦名大神の子。
大天使を汚したとされた少彦名大神の子。

  の子。



「……大丈夫だよ。俺の加護はともかく、アリーナ……ラファエルの加護は強いからね」







「あー、スッキリした、久々に人前で大泣きするもんじゃねぇよなぁ」


20にもなった身長195cmの大男が馬鹿みたいだと思いながら空を見上げた
綺麗である。今日も実にいい天気だ。


「……あの時と同じか」

「……あの時?」

「母さんの検査手術のちょい前かな。……あん時は春だったけど、すっげー日本晴れで桜がぶわぁああって咲いてて、綺麗だったなー。いやーまさか次が俺だとは」


まさか自分がこうなるとは。わかっていたからまだ、覚悟はできていたものの。
なんとなくここまでくれば、わかる。多分俺、死ぬだろうなーと。


「…………。よしっ、今日いれてまだ3日あるもんな」

「?」

「トールさん!遊ぼうぜ!」

「……、あ、あぁ……」


不思議と死ぬことに対して恐怖はない。それは多分、さっきの話を聞いたおかげかもしれない。
苦しくても、あんなに幸せそうに死ねるなら、いいもんだ。と思う。

だから俺は今日から死ぬまで、今までよりも存分に有意義に、生きなければ。



(タイムリミットまであとXX日)


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