まぁ変わったことなんて
どうも。唐突にお付き合いを申し込んだらOKされて未だに挙動不審です、ルアです。
「……ルア?」
「は、はぃ!」
「……大丈夫か?」
「ぜんぜん大丈夫です!」
一緒に帰るという行動が、たったこれだけでここまで俺に緊張を呼ぶとは、これは前代未聞である。かなり前代未聞だ。
あぁ、困った。こんな時いつもならどうしてただろうか。
(……自分から手繋いだり?それっぽいこと言ってたり?……無理無理無理無理)
こんな時ばっかりあんだけ遊んだ経験は悲しいほど役に立ってはくれない。
困ったぜルアルア
とは、思ったものの、よく考えれば今日一日俺がギクシャクとしているだけで、特に今までと変わったことは、ない。
「……うん、そ、そうな」
「……どうかしたか」
「あ!いやいやいやいや!こっちの話!」
慌ててブンブンと手を振って笑顔で否定すれば納得したようにうなずいてくれた。
いやぁしかし……無駄に緊張してたな。もっとこう……いつも通りでよかったらしい。
今更気づくとは流石俺の脳みそ。クルトンなだけあるぜ。
「んふふ〜」
「……」
「ふふ〜ん、んふふ〜」
「……ルア、一つ聞いても、いいか?」
「お?」
真剣な表情でそう言うからちょっとだけ戸惑いを覚えるものの、馬鹿な俺はボケっとした顔で言葉を待っている。
「……いや、すまない。……忘れてくれ」
「お、おう?」
よくわかんねぇけども、たいした話ではない、のかもしれない。
だからあえて聞き返しはしなかった。
緊張が解けたもんでちょっといい機嫌でルンタルンとスキップを繰り出した。
身長(リーゼント含めて)2Mの巨人のスキップである。どうだ、滑稽で笑えるだろう!
なんて思いながら鼻歌交じりにスキップで跳ねている20歳です。
大丈夫中身は永遠の16歳スーパーボーイだもんな!
『トール・メギンギヨルズ。至急学園長室へ来い』
いきなり響いた校内放送は確実にトールさんの名前を呼んだ。
トールさんは小さく……ロキか。とボヤいているようだ。あぁロッキーなら確かに何かやらかしてそうだ!
「そういうことなら先帰ってるなー?」
「……あぁ、すまない」
ワシャッと頭を撫でられ若干微笑まれてからトールさんは固まった俺を置いて歩いていく。
完全にトールさんが見えなくなった頃に俺の思考もゆっくり動き出した。
ネジでも巻かれていくかのようにギギギと音を立てている気がする俺の脳内が。
「……な、んだ、アレ……すっげー反則じゃん……」
これだから、男前は。これだから、男前は。
たった何週間でこんなに落とされていくなんて思っても見なかったぜこんちくしょーが。
「……来たか」
「……また、ロキか?」
「そうではない。……草薙も、入れ」
「はい……あの、一体……?」
「奴のことだ。早田ルアだ。……あまり、情を入れすぎるな。よく戯れておるだろう、お前たちは」
「え……あの、それは一体どういう……」
「いずれ、わかる。もうすぐそこ、らしいからな。ワシは中国神話の最高神が聞いたという話をしておるだけだ。詳しいことは彼奴に聞くのがいいだろうが……生憎、彼奴は今は人間界に出ておるからの」
「……意味が、わからないんだが」
「……本人がもう、わかっておるかもしれんぞ?人間とは、敏感で勘の鋭い存在だからな」
「あの……それは、直接、ルアさんに聞いてもいいこと、でしょうか?」
「……さぁな。それはワシにもわからん。わかるのはただ一人、なのだ」
「……本人か」
「そうではない。XX神話のXXXXXにしか解らぬことだ」
「え、でも、あのルアさんは……」
「詳しいことは、いずれ話してやる。今はとにかく、あまり情を入れすぎるな。彼奴は言うなれば劇薬だ。……あの性格は周りを和らげるだけでなく、いとも簡単に人の心を動かす。そうだろう、トール?」
「……、あぁ」
「……これで最後だ、彼奴だけは、やめておけ」
「……でも、それじゃ卒業が……」
「……ならば、その点はお前に託そう。トール」
「……俺が?」
「できぬとでも言うか?」
「……俺自体が卒業資格を得ていない」
「二人で一緒に、得ればいい。見ておったぞ。もういい関係ではないか。愛を学ぶには、丁度いいのだ。……喜劇には転ばないだろうがな」
(何も知らぬが、全てを知っているのは早田ルアだけだからな)
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