幻覚を探してたんだ!

ジャッと曲も終わって、3人がステージ袖へ戻ろうとしているのに俺は、気づいたら、ステージを飛び降りてきっといい笑顔で山のような生徒の波をかぎ分けながら、さっき一瞬見えたあの場所へと走っていた


「ちょ、ルア!!」

「!?」

「ルアくん!!」


3人の止める声なんか耳にも入ってきていなかった


「ごめん!ごめんなちょっと通してくれ!急ぎなんだよ!」


ここは神様の集まる学園だというなら、何が起きても不思議じゃないから。もしまたあえたら、俺は、俺は言うんだ
言う間もなく、凶器を打たれてしまったあの人に、言い損なった、たくさんの感謝のつまった言葉を。

それ以外にも聞きたいことがある。あんな死に際、本当に幸せだったのか。
生きてる間、本当にあの人は幸せだったのか。
どうして死に顔があんなに綺麗なのか。


「頼む、まだ、そこにいてくれ……!」


必死で混乱している生徒の波に抗いながら、笑顔で進む。
希望があるだけで、人間こんなに足が動くのか。
もしも、本当に幻覚だったら、とはクルトンな脳みそじゃ考える余裕も無い。

俺の周り、学校の先公も、通学電車に乗っていたサラリーマンのおっちゃんもOLの姉ちゃんも、大人、は皆つまらなさそうに笑っていた。
でも、あの人だけは、いやあの人たちだけは、毎日がまるで新発見を見つけた子供のようにキラキラしていたのを覚えてる。
外の奴等と違う、綺麗なままの表情を。

俺の憧れなんだ。いつか、そんな人に出会えたら、一番に教えるから。


「はっ、はぁっ……どこ、だ……!?」


なんとか体育館のいっちゃん後ろ、つまり一番後ろまでたどり着いたものの目的の人物はどこを探しても居なかった。
やっぱり俺の見間違い、だろうか。いや、そもそも俺があの人を見間違えるわけが無い。
つまり……


(幻覚、か……でも……)


幻覚でも、見れたなら、また、見れたならよかったかも知れない。
できることなら、ちゃんとあって話がしたいけれど。
贅沢は言えないのだ。叶わぬ願いなら、尚更に。


「……っしゃ、切り替え切り替え!」


バチンと両手で両頬を全力で叩いて思考を切り替える。
丁度脳細胞が死んだような感じのときに後ろから腕を引かれた


「あ……トールさん……!」

「……っ、はぁ……よかった……」

「え?」

「……探してる、あいつらが……、一旦、教室に、戻ろう」


あぁ、そうだった。あまりに必死すぎてステージから飛び降りたんだ。
なんてこったい。うまい言い訳は真っ白な頭には思いつかない。

でも、この事実を話す気には、いまいちならないのだ。


「お、よかった。ちゃんと通常通り動いてんだ」

「……さっき、アポロンが動かしたんだ」

「……アポ……?あぁ!重複ボーイ!」


それは重複ボーイに感謝だな!あとで覚えてたらなんかおごってやらねば!
しかし、ここって、生徒手帳あればなんでもタダなんだったな。
しゃーねぇ、エロ本でも贈呈してやるか。


(どうやら俺の求めた幻覚は見つからなかったようだ、残念)

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