気づいたのは
「…………」
「お前、朝から様子がおかしいと思えば」
「……うつった、かな」
「確実に月人の風邪がまわってきたな」
あーあ。という冷慈を無視して俺は保健室のベッドで寝る体制をとる。
夏祭りから数日が立って、俺は風邪で寝込んでいた。
草薙さんと月人さんには授業に出てろって柊さんが言ってくれたから、今この場所にいるのは柊さんと冷慈の叔父さん甥っ子コンビ。
「……さて、本題だけどな」
よっこいせ、と椅子から立ち上がって、柊さんが俺の方へやってくる。
「お前、まだ卒業の見込みはねぇんだってよ」
「……?」
「は?いやいや……宋壬あんなに頑張ってたじゃん、なんでだよ」
「……まぁ、俺は、いいよ」
「おい、ちょっと」
それを聞いて、どこかで少し安心をした。それっていうことはつまり、俺は何も変わっていないってこと。
この学校の空間が不老の空間ということは、年をとらない、俺にはとても居心地のいい空間。
「え……?」
カシャンと音がして、そっちを向けば草薙さんが驚いたように立っていた。
聞こえちゃったのかな。と判断して、俺はベッドの中で瞼を閉じる。
そしてゆっくりとここ最近で使いすぎた脳みそをもとに戻していく。
「な、なんでですか!?宋壬さんだって、あんなにがんばってくれたじゃないですか!」
「それを俺に聞かれてもな。……足りねぇんだろ。何かが」
「そんな……。……宋壬さん……あの……ゆっくり、ゆっくりでいいから頑張りましょう……」
きっと、寝ている俺が落ち込んでいると思ったんだろう。
優しい彼女はそう声をかけてくれるから。
俺はそっと現実を口に出した
「……俺は、卒業したくて頑張ってた、わけじゃない」
「え……?」
「……指輪、外れれば、なんだっていい。……月人さんと、付き合うまで、俺は見てるだけ」
まるで他人事のように吐いたその言葉の真意はそのまま。
だって他人事。俺にできることじゃないのは明確。
この最近頑張ってたのはなんでだっけ。もう覚えてないや。
もう、いいや。卒業できなくてもこんなに幻想的で綺麗な、まるで物語の夢の世界のような場所で不老のままいれるなら、俺には最適。
この指輪さえ外れるなら。
「おい!!宋壬!!お前、自分の言ってることわかってんのか!?」
今度こそ寝ようとすれば冷慈が俺にかけられていた布団を剥ぎ、胸倉をつかみあげられる。
びっくり、した。と脳の端でなんとなく思っていれば、冷慈はまるで今にも泣いてしまいそうな、いや、今にもかみつきそうな、複雑な難しい表情をしていて、なにを思っているのかわからない。
「っ……、もう、いい。俺は知らねぇからな……。行くぞ、草薙」
「え、あ、あの……っ!」
「あんな奴、放っとけ」
(どうして、冷慈はそんなに怒ってるの、俺のことなのに。やっぱり、変な人だな)
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