来訪者
射的をしているのをチラッとみて、俺は視界に入ったやきとりの露店に気を取られて、フラフラとそっちへ歩いていく。
「やきとり……えっと、とりかわ、4本ください」
「はい、まいどあり!」
そこの生徒にもらって、お金を渡して食べながら背後を見て驚く。
あれ、いない。どうしようかな。
(最近ずっと一緒だったから、はぐれたりとかって、新鮮だな)
どうせ100メートル離れれば電流がバチバチして痛いんだし、まぁ、それのおかげで100メートル離れたってことはわかるから、ちょっとの自由を手にしてもいいかもしれない。
(……やっぱり、人が多いのは、好きじゃない、かもしれない)
多分、ここ最近のからさっきまでの疲労が一気にきたのか、もう歩くのもしんどい。と思い、ちょっと裏にまわって座り込んだ。
「……きついなぁ」
俺にしては、がんばってたほうだと思う。だから、少しだけ。
「……おやすみ……」
ゆっくり意識を飛ばそうとすれば、聞きなれない女のひとの声が耳になんとなくついた
多分、まったく知らないのに耳に入ったのは彼女たちが俺たちの住んでいるところと同じ方言でしゃべったから。
「……あげんところに人が倒れとるばい」
「まぁ、あげなところで倒れてらっしゃーとね!?」
「お、落ち着かんね、もしかしたら寝とるだけかもしれんのに……」
なんだか元気のよさげな声だなぁと目を開ければ、小さな女の子が一人。それと同い年くらいの女の人が二人。
見た感じは友達というよりも、姉妹のような。
「……」
「お、おきたぁああ!やっぱり寝とったんです!?ひえ、驚いた……」
「もう、やけん言ったやん……」
「申し訳ないことばしたねぇ……」
どうやら制服を着てないことからするに、多分、あの姿は神様なんじゃないのか、と予測できた。
一番小さな子(といっても中学生くらいかもしれない)が、お腹を押さえて、ぽつりと空腹を訴えるようにしていたので、手元にあったとりかわをもって、のそりと近づいてみる
「……な、なんね、です!」
「……食べる?」
「!!いいん!?わー!お兄さん優しか〜!」
お姉さんたちがすいませんと謝るので一人一本ずつ。
ちょうどいい。俺も食べよう。
「……えっと、」
「あ!名前やね!私は市杵島姫っていうんよ!よろしく!」
「……い、いち……?」
「い ち き し ま!」
いちきしまと言った彼女はまだボウっとしている俺の手を引いて小走りに進みだす
「そういえば、わたし、まだアンタの名前聞いてないばい!」
「あ、えっと、日白義宋壬……だよ」
俺が名前をそう言った瞬間だった
「「「おった!!」」」
「え」
「なんなーん!お兄さんがぜうすのおいちゃんのゆった、とんどさんなんー!」
「言われてみれば、それっぽいんやねぇ」
「まぁまぁ、これは無礼をしてしまったばいね……」
どうやらよくわからないけどゼウスさんに俺のことを聞いてはいたらしい。
それにしてもまたなんで、だろう。
「……なんだ、来てたのかお前ら」
目の前には気づけば柊さんが夏祭りよろしく(多分)自前であろう浴衣を着て立っている。
「あー!大ちゃんやんー!!好きーー!!」
「あーはいはい。市杵島はあいかわらず騒がしいのが好きだな」
どうやら柊さんとも知り合いの神様らしい。この絵面だけみると柊さんがもう犯罪者に見えてくるのは俺の気のせいじゃないと思う。
「宋壬、こいつらはアレだぞ、宗像大社に祭ってある女神だ」
「……あ、だから、方言……」
「そういうこったな。こいつらは、まぁ…………いいとして、お前、草薙と…………あー……あの紫頭が探してたぞ、今は保健室にいるだろうけどな」
「……??うん、わかった……。いってくる」
「ならお兄さん!またねー!さー!大ちゃんはよーお面買ってー!」
「おいこら、待て」
(なんだか楽しそうだなぁ、あの宗像大社の女神さま)
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