今宵も月が
中庭について、草薙さんを真ん中にして両端が俺と月人さんでベンチに座る。
今日も綺麗な月だなぁ。とボンヤリ思いながらただ眺めるだけ。
ただ眺めるだけな俺をよそに草薙さんは口を開く
「月人さんは、お祭りに興味があるんですか?」
「え……?」
草薙さんの質問に月人さんは少し驚いたような顔をしていた。
どうなんだろう、そんなことあんまり俺考えてなかったな。
「今日はずいぶん熱心に質問していたので、てっきりそうなのかと思ったのですが」
「俺は……俺にも理由はよくわかりません。自然と体が動いていました。不思議です。ただ、生徒会の皆に喜んでもらいたいと思いました」
(あぁ、俺とはやっぱり違うんだなぁ)
俺が夏祭りを提案した理由なんてただの連想ゲームの思い付き。
別に喜んでほしいとか思ったわけでもない
ちょっと脳みそが冴えたからって、どうやら俺はまだ他人へのそういった感情は沸きそうにない。
そう、俺は俺のことだけで精一杯。
「この間のお月見も綺麗でしたが、今日の月も素敵ですね」
「えぇ、今まで義務でしか月を見ていませんでしたが、誰かとみることで違う輝きを知りました。それは月に限らず、生きるという行為も同じです。なぜ生きているのかわからなかった。何事にも興味がなかったのです。自分にさえも」
……ほら、俺にはまだわからないことを言ってる。
「自分はどうだっていい。ただ任務さえ遂行できれば感情など必要ないと思っていました」
そんなことはない、とは思う。
でも正直に言うなら、それは俺には関係のないことで、俺にはそれを聞いて何か声をかけてあげるような、心の広さがない。
だから、自分のことしか興味がない。
俺は、逆なんだ。生きてるのは、死ぬためだろうなって漠然と思ってるし、自分のことはそこそこ気にかかってる。ちょっとした死への欲があるのもそう。
色んなことを考えすぎて、他人のことまで考えるスペースがない。
「月人さんは大切な人です。皆にとっても私にとっても」
「そうなれるように頑張ります。生まれたばかりの赤子と同じ、わからないことばかりです。これからもご教授ください」
「はい……私でよければ」
いい会話、だなってなんとなく思いながら、自分がいかに小さい人間かを突きつけられたような気分になって、それでもやっぱりがんばる。とは言えない俺はきっと人としては最低なんだろうな。と思いながら、少し、冴えた脳みそが活動をやめたような気がした。
「宋壬さんも、今日は素敵な提案ありがとうございました」
「……俺、ただの連想ゲームで言っただけだから……。理由あってじゃないから、お礼はいらないと、思うよ」
「いえ、どんな理由でも、意見を出してくれたのは宋壬さんです」
あぁ、本当にいい人なんだな。と思いながらも、自分の中に芽生えた、この黒いモヤモヤが消えるわけもなく、ただ頷いておくだけであとはいつも通りにベンチに座ってゆっくり目を閉じる。
なんとなく、今は月も見たくなくなった。
「「……あ」」
なんとなく静かになった空気を切り裂いたこの二つの声、そのうち一方は俺のよく知った声だった
「あにぃと雑草じゃねぇか。あと、うん」
「宋壬、お前そんなところで寝ようとすんなよ」
「何くっついてるんだよ。あにぃが迷惑だろうが、雑草!」
ゆったりと目を開け、冷慈、と呼ぼうとしたら、冷慈によく似た人が何やら草薙さんに怒っているようで、タイミングを見失った。
じゃあ、寝よう。
「おい、お前はしれっとまた寝ようとすんな」
「……冷慈、うるさい……」
俺と冷慈が話してる横では月人さんが冷慈に似てる人に草薙さんの名前を教えていた。
「お前、大丈夫か?」
「え?」
「なんか、いつもより深刻そうな顔してんぞ。おい、草薙、コイツになんか言ったか?」
「え!?い、いえ……特に気に障りそうなことを言った記憶はないんですが……」
「……そうか。じゃあ俺の勘違いかもな……な、宋壬ちょっと借りていい?」
「え……俺は物じゃないよ……」
3人がワイワイしだしたのを尻目に俺は冷慈に連れられ、少し距離をとった場所に連れていかれる。
たぶん50メートルくらい離れてる。多分。
「……で、お前は何一人だけこの世の終わりみてぇな顔してたんだよ」
「……なんで、わかったの」
「そりゃお前、何年の付き合いだと思ってんだ」
「……」
どうやら、俺は顔に出てしまっていたらしい。
なんということだ。草薙さんたちはあの様子じゃ気づいてなかったようなので、それだけは安心である。
まぁ、元々俺が無表情に近いし、平気かな。
「言いたくないならいいけど」
「……俺、心狭いなぁって」
「……あ?」
「綺麗なんだけど、俺には毒だなぁって」
「????」
俺の言いたいことはどうやらうまく伝わっていないようで冷慈は、「なにが言いたいんだ」って顔で頭上に?を山ほど浮かべているようだった
比喩表現が通じない冷慈にひどいことをしたかもしれない。と思いながら、やっぱりなんでもないよ。と返しておく。
「……よくわかんねぇけど、また死にたいとか言うなよ」
「……覚えてたの昔のことなのに」
「当然だろ」
本当、冷慈は変な人の代表だ。言ってもないのに周りの人が悩んでるのを察してお節介する。
損な人である。
俺は逆にそんなの気にしないから足して2で割るとちょうどいいのかもしれない。
「……冷慈ってバカだよね」
「ちょっと待て、おい」
「あ、ほら、あの人も帰るみたいだよ、バイバイ」
「この野郎」
冷慈に似た人がこっちに歩いてきて、冷慈と一緒に帰っていく。何しに来たんだろうな、あの二人。と思いながら俺もベンチの方へ、戻ろうか迷っていると、今日はもうお開きということになって、3人で、戻ることにした。
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