あれ?
色々と役割を決めてから、俺たち……俺は仮だけど、生徒会は夏祭りに向けてそれぞれ準備をしだしていた。
俺は指輪のせいであまりふたりと離れるわけにはいかないけど、ちょっとだけ距離をあけて何枚かまた告知ポスターの案を考える。
クラスでやることを分担して、作業するにしても、ポスターは俺になったらしい。
と、いっても、描くのは夏祭りを知らせるポスターだけだけど
「…………」
ちょっとだけ離れた場所では月人さんが草薙さんに祭飾りについていろいろと聞いているようだった。
この距離感、俺的にはちょうどいい感じがして、嫌いじゃない。
近いような、遠いような。
「……という感じですね」
「参考になります」
俺が一瞬ぼーっと考え事をしていると、説明を終えたらしい草薙さんと聞き終えた月人さんの会話が耳に入ってきた。
「君は祭に詳しいようですが、何度も経験されたのですか」
「えぇ、物心ついた時から。迷子にならないよう、両親と一緒に屋台など回っていました。もちろん、今でも参加します。うちは家族揃って祭りの準備もするんです」
「家族で、ですか?」
「私が住んでいた町では、神社の人間が中心となって祭りを行って……うちも神社なので必然的に参加するんです。祭り自体にも、準備も片付けも」
「それから……?」
「それから?えぇと……」
「祭りでは家族と、どう過ごすんですか?」
「一緒に買い物したり、ですかね。珍しい屋台があれば見に行ったりも……。ですよね?宋壬さん」
急にふられた話題に、ぼんやりした頭で思い返してみる。
確かにいくら引きこもりといえど、俺だって祭りにはいったことはある。
ただ神社であるようなものじゃなくて、なんていうか、花火大会にひっついてるのだったり、町が主催してる小さなお祭りだったり
それに何より、俺は最近は祭りといえば冷慈や彩詞たちとしか、行かないから。
「うーん……俺は冷慈達と、だから……」
「日白義宋壬は、満田冷慈と行っていたのですか?」
「……うん。家族も行ってたけど、俺は冷慈のほうだったかなぁ……」
まぁ、草薙さんみたいな事情があるわけでもないし、この年の男が家族と祭りを回るのも変な話だからなぁ。と思いつつ、聞かれたことに返事をして、またポスターをどうしようか考えることにした。
「そうですか……」
「あ、そういえば夏祭りのときって、特別に両親がお小遣いをくれたりしませんでした?」
考え出すとまた振られた話題に、また脳みその引き出しをあけて、ぼんやりと返事をする
「……そういえば、もらってた、なぁ」
「どれに使うか悩むんですよね」
「ふんふん……それで?」
なんだか、うまく乗せられたような気がしてならない。
草薙さん、策士なのかな。と思いながら、鉛筆をもっていた手を少し休める。
「年を追うごとに頭を使うようになって、兄と手分けして食べ物を買って分けあったり、合計して高いものを買ったり……」
「何事も経験は大切ですね。それを次に活かすわけですか」
「宋壬さんはどんな風に使われてました?」
「……俺は、ほとんど食べ物だけで、冷慈は射的で全部使ってたり、彩詞はヨーヨー釣ってたり、哀詞はあんまり物欲もそういう欲もないから適当に買ってた……草薙さんみたいな、頭のいいことは、俺たちはしてないよ」
「でも、友達とのお祭り!って感じですね。楽しかったですか?そのお祭り」
「……うーん、どうだろう。……食べ物がおいしかったから、楽しかったかもしれないね」
適当に返事をして、俺にして珍しく長めに会話をしているせいか、少しいつもよりも脳みそが冴えた気がした。
こう、見えてる世界がクリアな感じ。
どういえばいいのかはわからないけど。
「やはり祭りの参加者は子供が多いのですか?」
「……うーん、そんなことないと思うな……家族で来るのか、俺たちくらいの年齢層から20代が多いような……」
「恋人とか友達連れで、ですよね」
「うん」
そんなことをワイワイと話していると下校時間を告げるチャイムが鳴って、もうこんな時間なのか。と驚いた。
あ、ポスター描かなきゃ。今日の夜でいいかな。と、いそいそと片付けをする。
「ずいぶん話し込んでしまいました。そろそろ帰りましょう」
「本当だ。もうこんな時間」
やっと少し冴えた気がする脳みそがまたぼんやりするんだろうなぁ。と思いながら、鞄に筆箱と紙をいれる。
「……今夜も月を眺めますか?」
「無論です。その問いの理由は?」
「あ、いえ……」
背後の会話を聞いて、いつもなら何も言わないのに、今日は脳みそが冴えてるおかげで草薙さんの言いたいことがなんとなくわかって、でも、俺が言っていいものか、俺の問題じゃないと思って、黙っておくことにした。
すこーーしだけ進歩したと思ってほしい。
声にしなくても頭で理解できたって俺にしては珍しいこと。
「なんでもないです……」
「なるほど、了解です」
「……?」
「一緒に行きましょう。もう少し話をしたいです。傍にいてくれますか?」
「月人さん……!」
おぉ、これはいよいよいい感じっていうやつだ、きっと、多分。
自信はないけど、そう思った。ほら、恋人にならなきゃ外れないからガンバレガンバレと、まだどこか他人事のように二人を見守る。
100メートルだっけ、離れちゃいけないのって。
「宋壬さん……あの、ご迷惑じゃなかったら、ご一緒しませんか?」
「どちらにせよ、指輪があるのであまり離れられはしませんが……」
「……?俺?…………じゃあ、少しだけ」
そうしてなんとなく三人で中庭にむかっていった
[ 33/40 ][*prev] [next#]