屋上でご飯嫌です。
仕方なしに屋上でご飯を食べることになって、俺は今草薙さんを真ん中に月人さんと3人で屋上のベンチに腰掛けている。
もうご飯は食べてます。
「宋壬さん!も、もう少し待ってください、お願いですから!」
「……え、やだ」
草薙さんがあの、マニュアルとかいうふざけたノートを律儀に使おうとしている。
なんてことだ。神様に遊ばれてる。
「何を確認しているのですか」
「食事までのシチュエーションが、いくつか載っていたので……。あ、これです」
「1.おかずを交換する。2.ご飯を食べさせてあげる。3.口移しをする」
「どうしましょうか……」
「恋人なら全てやるのでは?」
「え……!いや、慎重にクリアしていきましょう。ですので一つずつで……」
「では、ご指定ください」
そんな会話をしている最中に俺は二人のお弁当から気になっていたおかずを一つずつ頂戴した。これで、2は成功したよ。俺はもうしないよ。
二人から、ご飯食べさせてもらった。うん。
うーん、目に映る指輪はとても嫌だけど、ご飯はおいしい。と勝手にもらったおかずを食べながら一人、空をぼけっと見つめる。
「く、口移しで……」
「質問があります」
「え、はい?」
なんだかとても大胆な選択だなぁ。と聞えてきた会話にぼんやり意識をむける。
まぁ、俺には関係ないけれども。
俺は二人を見守る側にいるからいいのだ。
「口移しとは、どういった行為なのですか?俺には全く知識がありませんので、ご教授いただきたい」
「ぇぇと……」
月人さんの説明に草薙さんが困惑をしているらしい。
口移しといえば、姉さん達のもってる同人誌で割りとよく出てくる定番のものである。
だから知っている俺は、空を見たままぼけっと説明をする。
「食べ物を……噛み砕いて食べやすくして、相手にキスして、そのまま、舌で相手の口の中に……」
「わぁあああ!えっと、あの!片方が食べ物をくわえて、もう片方がそれを食べる、ってことです!」
俺の説明がどうやら羞恥だったらしく草薙さんは慌てて、まるでポッキーゲームのような説明をしていた。
それを聞いた月人さんは、焼き鮭をくわえて、顔をこっちに向ける
「……どおじょ」
「……俺がやると、絵的に嫌だから、どうぞ」
「あ、あの……」
赤面しながらも、草薙さんは、なんとか焼き鮭のはじっこを食べて、すぐに顔をひっこめた。
わーおいしそうな焼き鮭だー
「だ……いじょうでふか?たりまふぇんか?」
「いいえ、もう十分です。終わりです!」
なんだかとてもこう、同人誌のようなものを見せられた気分だなぁ、姉さんがいたら喜びそうだ。と思いながらお弁当をやっぱりぼけっとしながら食べてみる。
うん、おいしい。
食べ終わったころ、ふと月人さんが呟いた
「他にもシチュエーションをやりますか?昼休みを対象とした記述があったと記憶しています」
「あ、そうでしたね。……そうだ、今度は、宋壬さんも何かその、恥ずかしさの少ないものをやってみませんか?」
「……えー」
やっぱり、俺にも振られるのかーと面倒だと思いながら適当に返事をする。
「現在は1の景色のいいところで食事……を実行中です」
「なら、2を」
「膝枕ですか」
「え」
「……どうぞ」
「逆です、月人さん」
「逆?」
なんだかんだと楽しそうな会話が聞こえてきている。俺はいまだぼけっと空を眺めているだけだけど。
なんとなくやってきた睡魔に身をゆだねるように瞼を閉じようとすれば、横から草薙さんが退いて、俺の膝にトスッと何かがのった
え、と思って目をあければ、月人さんだった。
「……あの、男同士でこの、状態は、どうかと」
同人誌のおかげで抵抗もなければ見慣れてもいるけれど。そう言っても、月人さんはただじっとこっちを見てきていた。
「人の膝というのは意外と柔らかくて弾力があるのですね。そして包まれているような安心感」
「……男の膝にはないですよ」
「ふふ」
草薙さんはまるで、お母さんのような優しい笑顔をしていた。
あぁ、よかった。草薙さんがてっきり姉さんと同じ部類なのかと少しヒヤッとした。
「それに普段あまり見ない角度からの視界の変化が新鮮味を感じさせます」
「……へぇ。そろそろ、俺の脚がちょっとつらいので、やめませんか」
「了解です」
なんだか対して変化があったようにも見えない行動をして、飛んでいってしまった眠気の代わりに空腹になったので、ポケットからお菓子を取り出して、食べる。
(あーあ、昼休み、終わっちゃったな)
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