朝から沈む
「宋壬ー!!起きろー!」
今日は冷慈ではなくて、哀詞が俺を起こしにきていた。ということはきっと冷慈もまだ寝てるんだ。と無理矢理起こされた頭でなんとなく認識した。
きっと今頃彩詞が冷慈を引きずり出してる。
「眠い……」
「もう時間ねぇしお前!部屋の前!っと、アレだ……草薙と、アレだ……。……あの紫が待ってるぞ」
「……月人さん」
「それそれ」
哀詞は彩詞とばかり一緒にいるせいか、生粋のブラコンだからなのか、こっちの人達……神様の名前を覚えたがらない。
どうやら、それ以外にも理由はあるらしいが、哀詞が探している神様はここにはいない、らしい。
哀詞も冷慈並に恐いと思うのに、見た目が普通だからか、特に不良というレッテルは今のところ貼られてないけれど。
「着替えたらはよ出てってやれ」
ゲシッと蹴られて背中を摩りながら俺よりも身長の低い哀詞を撫でておいた。
「馬鹿にしてんのか!!俺はこれでも160だ!」
「……俺、178……」
「……しねぇ!!」
これ以上身長の話をすると冷慈より恐くてめんどくさくなりそうなので、なでるのもやめて着替えてから部屋を出る。
そこにはもう草薙さんと月人さんが来ていた
「……お待たせしました」
「いえ、大丈夫です」
「宋壬さん、おはようございます」
「あ、おはよ……」
どうやら今日から3人で食堂で朝ごはんを食べるらしい。
それが月人さんのためなんだとか。
俺は正直、食べれたらそれでいいんだけど、これでこの指輪が外れるまでは冷慈の朝ごはんは食べれないなぁと食堂に3人で迎いながらぼんやり思った。
「…………………………」
食堂には人がたくさんいるけれどどこもかしこも、同性の集団で明らかに冷慈の苦手な雰囲気を漂わせていた。
そんなところに草薙さんと月人さんがいるから注目をされている。
俺は人ごみに流されてちょっと離れてしまった。
でも、100m離れてないし、いいか。
「うーん……洋食か和食かぁ……」
日本人として、ここは朝は和食がいいなぁ。と食器をとりながら前へゆっくり進む。
「月人さん、お箸忘れてます」
「どうも」
「あ、これもです。お手拭も」
「どうも」
「注文!注文していませんよ。和食でいいですか?」
「えぇ」
わぁ、親子みたいだなぁと少し離れたところから前の二人を眺める。
「あの、すみません」
「?」
「箸、忘れてますよ!」
「……あ、どうも」
ぼんやりと眺めていたせいか、俺も箸をとり忘れていたようで、後ろにいたオレンジ色の髪に黒の眼帯をした外人くんに声をかけてもらった。
愛想のいい人だなぁ。と思いながら箸をとって、また前へ進んで、和食を注文する
「料理来ました、受け取ってください!あ、宋壬さん!そんな後ろにいたんですね」
「……うん。人が多いから」
それを理由に目立つ二人からちょっと離れていただけなんだけど、本当のことはうっかりでも言わない。
冷慈と哀詞じゃないんだから。
「食べましょうか」
「了解です」
「いただきます」
早々と席について、俺はすぐにご飯を口へ運ぶ。
うん、今日もおいしくご飯が食べれてる。幸せだな。
「…………………………」
「…………………………」
二人が黙々と食べている。俺も喋るほうじゃないからさっきからずっと食べているけど、ふと近くに人の気がして振り返った
「……あ」
「あにぃ、おっす!先に行くなら声かけてくれって言ったのに」
「おはようございます。よく眠っていたようだったので起こすのも悪いと思いました」
「あにぃはやっぱ、やさしいな!飯、一緒に食べていいか?」
何も気にせず彼は月人さんの横にドカッと座ると、俺と草薙さんに気づいてか、嫌そうな顔をした。
……。どうもすみません。
一応心の中で謝ったから、もういいや。とその表情は気にせずに俺はまたご飯を食べ始める。
「んだよ、てめぇらも一緒かよ。邪魔な奴だ」
ふと、そう言われたので、思い立ったがなんとやら、で冷慈をからかうときのように、彼に口を開いてみた
「そんなこと、言う人冷慈は大嫌いだったなー……冷慈、どこ、かな」
「っ!?」
「……うそ、だよ」
「人で遊ぶんじゃねぇ、宋壬」
嘘だと言えばその瞬間真後ろから冷慈の声がして振り向けば、右の口角だけを吊り上げて、腕を組んで、冷慈が立っていた。
見るからに機嫌が悪そうだ。きっと起こされたのもあるだろうし、食堂にきてイライラしてるんだろうし、今のを聞いてたトリプルパンチなのだろう。
まぁ、いいや。
「くっそ、今日は朝はゆっくり自分のペースでできると思ったのによー彩詞の奴が起こしにくるわ、たまには食堂で人になれろとか余計なお節介だろ、くっそ、うぜぇ」
「……冷慈、あんまりそういうこと言わないほうがいいよ。あの人いる」
「?あ?尊?いるからなんだよ?」
「好感度、落ちるよ」
「なんじゃそら。気にしねぇし」
どこかのゲームのような例えで言ってはみたものの、ゲームをしない冷慈には伝わらなかったらしい。
昔から極端に人付き合いが下手なのは重々承知だけど。
こうやって自分から敵を増やしてるのも、優しいから、だということも知っているけれど
(……まぁ、いいか。俺のことじゃないし)
これ以上はだめだ。八つ当たりでもされたらたまったもんじゃない。と俺は残りのご飯を食べることに専念する。
その間、尊くんが冷慈に話しかけては折られ、を繰り返していた。
(……、皆、こうやって変わっていくのかなぁ、じゃあ、俺、は?)
到底変われる気もしないし、変わる気もないから無理な話か。と脳内に一瞬沸いた疑問を振り払った。
(うーん、ご飯、おいしい)
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