あ、まってまって

「…………悪い」


トールさんが申し訳なさそうに俺と月人さんと草薙さんに頭をさげる。
どうやら、本当にそうなるまで外れてはくれないらしい。


「……ロキに代わって謝罪する。……取り返しのつかないことをした」

「では、やはり指輪は……」

「……本当にすまない」

「……俺は、月人さんと草薙さんが恋人になれるように見守るので平気です」

「ちょっと宋壬ん〜!?逃げないでよ〜!」

「……?1人あまるんだったら、これが正解だと思うよ……?」


そんな俺とロキくんのやりとりを聞いて、更に草薙さんは落ち込んでいるように見えた。
でも、俺にはどうにもしてあげれないし、してあげようとも思えない。
とりあえず、俺は今は自分がこの指輪をつけたままどう平和に過ごすかを考えよう。


「妖精さん。落ち込まないでよ、妖精さん。こういうときは前向きに考えようじゃないか」

「前向き……?」

「愛とは幸福!ツキツキとトシトシのどっちかと恋人になれば満ち足りた日々を送ることが出来るよ!」

「……だから俺は、見守る方です……」


なんで俺を恋人候補にいれるんだろう。と思いながらも余っている団子を食べながら、なんとなく話を聞いている。
どうにも興味のわくような話ではない。
この場に姉さんがいれば、きっと冷慈や双子の姉と一緒に三人で、同人誌的展開がきたとかどうとか騒いでそうだけど。


「そもそも……恋人とは何のために存在するのでしょうか。どういったものなのでしょう……?」

「……そこは、俺にもわからないです……。引きこもりですから……」


そんな俺と月人さんに、アポロンさんは、陽気に無理難題をつきつけてきた


「恋人とは、本能!僕らは魂のささやきによって結ばれる!それに従い、愛しあえばいい!」

「……全てが理解不能です。難解すぎます」

「……俺、もう充分本能で生きてると思う、んだけどなぁ……」


ただでさえ日常生活を、食べて寝て。と本能のままに過ごしている俺に、それに愛を加えろとは。
そんな余地はどこにも残ってないので、どうやら俺にはこのミッションはクリアできないようだ。


「んじゃ、カンタンに愛を育む方法を教えたげる。何事も形から!とりあえず、キスしちゃいなヨ!」

「と、とりあえずって!!」


そう言われて、とりあえず俺は冷慈の方へ避けた。
だって、そんなことを俺ができるわけがない。冷慈ですら俺の髪ぐらいしか触れないのだ。というよりも、髪しか触れることを許してない。
俺にいつも優しくしてくれるグルーガンさんですら、触れてほしいとは思わない。


(他人の体温は、ダメなんだ)


それがまだ、純粋である子供であれば、なんともないにしろ、同年代になるとどうも許せない



「接吻ですか」

「そゆコト!肉体の接触があれば変わってくるもの。キスすれば全部わかるのさァ〜」


それはどうなんだろう。肉体でいくら接触したとして、それを良しとしない人間だっているのだ。俺のように

特に理由があって嫌なわけではないけれど、どうしてか俺は他人に触れられることが得意ではない。
髪はまだいいけれど。


「了解しました」

「ま、待ってください、月人さん。どうか冷静に……!」


俺がチマっと考えっている間に月人さんと草薙さんは、いい感じだった
おぉ。と思いながら団子を食べながら俺は見物をする。


「あの……心の準備が……」


草薙さんの言葉を無視して、月人さんは、近寄っていく。
テレビや漫画の中でよく見るような、かわいいシチュエーションだな。と他人事なので、ただ見ている。
冷慈は居づらくなったのか木の陰に隠れて休憩をしているようだから、俺もそっちへと回っておく。


「……お前もちっとは外す努力しろ」

「……えー……。興味ないよ……」

「……あのなぁ」


呆れたようにそう言われた。後ろでは世でいうリア充のような会話が聞こえている。
キスとかすっごい遠い会話だなぁ。


「これが接吻……残念ですが、俺には何もわかりませんでした。何も得られなかった」


どうやら失敗したらしい


「そんな……ひどい」


でもこれは、草薙さんにはあまりにも可哀想かもしれない。よく知らないけど、漫画の中では、女の子はファーストキスを大事にするとか書かれていた気がする。
だとしたらきっと草薙さんも、ショックをうけているだろう。そんな声だったし。


「もーちょい経ったらわかるって!ていうか、わかんなくちゃダメだよォ。指輪外れないも〜ん。宋壬んも頑張りなって〜!」


どうやらただでさえ疲れていた俺はまだ頑張らないといけないらしい。
第三者のいたずら犯の声で現実に引き戻される。

冷慈以外の皆がキスした二人と俺を見ている。


「……っ!」


草薙さんは俺の横を走り去っていった。
あーあ。と思いながらも俺はまた冷慈の横に……


「行ってこい。つか行けよお前」

「え……」

「さっき月人がやったんだから今度はお前がいってこい。話聞くだけなら平気だろうが聞くだけなら」

「……えー……」


そうだよそうだよ!と神様たちにも背中を押され俺は座りかけた腰をまた持ち上げて歩き出す。


「……きっと、そんなに遠くには行ってないと思うので、いってきます」

「了解です」

「月人さんは待っててください」

「了解です」





「……いた」

「っ……宋壬さ……ん……」


目に涙を溜めたまま彼女は一人で泣いていた。そんなに嫌だったのかと思いながらも横に腰を下ろす。
あぁ、歩くの疲れた。
もってきていた団子をひとつ、草薙さんに差し出しておいた


「……え?」

「……嫌なことあったら、食べたら忘れる。あと、寝たら。……美味しいよ。冷慈もおいしいて言ってた。ブルーベリー団子」

「……ありがとう、ございます……」

「……。綺麗だ……」

「え?」


空を見上げたまま月を指さしておいた。
満月が光り輝いていて、でもどこか寂しそうに見えた気がして。


「……草薙、さん」

「はい……」

「……俺は、人と、触れ合うの、好きじゃないから……。でも、外れるように、頑張ろうとは、思う、から……元気、だしてね」


彼女と俺、俺と月人さん、月人さんと彼女。この中で現段階で一番恋人として成立しやすいのはどう考えても、月人さんと彼女なのだ。

俺はまず手も握ることがないから、いくら仮とはいえ、恋人になれるわけがない。


(他人事だし、興味はないけど、泣かれたら、困るな)

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