Prologue
生きること程難しくて、嫌いなものはない
生きてればお腹はすくし眠くなる。その二つだけあれば俺は充分だというのに
「宋壬ー、今日は、行くか?」
「……今日も行かない。冷慈、ごめんね」
「何謝ってんだよ。いーんだよ。慣れてるかさ。散々罵倒されんのもな」
幼馴染が、俺が学校に行くように、毎朝来てくれる。自分も色々と言われていて大変だろうに
(いい人、なんだろうな。なんだかんだ)
でも、俺は一度だって、そんな冷慈を助けようともしなかったし、助けたこともなかった
他人と共存なんてしていたら、俺は、自分が生きれなくなってしまいそうだから
(一人で一杯いっぱいなのに、他の人を思うことなんか、できないから)
どうして学校に行かないのか、と問われても俺にもよくわからない
冷慈みたいにいじめられてるわけでもなくて、友達がいないわけでもない
ただ、あの他人が多すぎる空間が好きじゃない。ただそれだけ
「……。お腹、空いた」
一人で、食卓に降りていけば、朝ごはんがおいてあったからそれを食べる
太陽は嫌いだ、体力的な問題で。だからカーテンもまだ閉めたまま
「ご飯食べたら、寝よう」
毎日、寝るか食べるか、絵を描くかの生活を繰り返していた
余計なものはいらない、俺が生きていくために必要なことだけ
また特に考えることもなくなんとなく毎日が過ぎていく
ずっとこの生活は変わらないと思っていたし、この生活で充分だと思っていた
俺には誰かを想いながら生きていくなんて大変なことが出来るわけもない
(今日は……何を描こうかな)
スマホに眠る写真を引っ張りだして、模写したい写真を探していく
目に留まった写真は自分では撮った覚えもないし、誰かにもらったわけでもない、言うなれば神秘の場所
「……こんな、満月の綺麗なところ、知らない……」
ゆっくりと再び襲い来る睡魔に抗うことも無く、スマホを見ながら瞼が落ちていく
(これ、一体どこなんだろう。行ってみたいな。こんな綺麗なところがあるなら)
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