またノロマと呼ばれた


昼休みを告げるチャイムが俺の耳へしっかりと伝わってきたので、いつも通りのっそりと起き上がる。
トト先生の恐い授業だったせいか緊張していたように感じる空気が一瞬で柔らかいものへと変わっていた。


「お昼だ……」


生徒手帳をもって、購買部へお弁当を今日は2つくらい買おうと意気込んで、立ち上がる
そのとき、トト先生の声が俺を呼び止めた


「おい、そこの」

「……私ですか?」


どうやら一瞬止まってしまったが俺ではないようだ。
よかった。もうお腹が背中にくっつきそうだから、と今度こそ歩き出す


「話がある。愚鈍とノロマを連れて図書室まで来い」

「あ、はい」

「え……」


聞えていた会話には"ノロマ"という言葉が確かに入っていた。
あぁ、俺もなのか。こんなにお腹がすいてるときに、偉い神様と話さなければならない。
終わったらやっぱり今日はお弁当は3つ食べよう。

仕方ないと思いながら草薙さんと月人さんと図書室へと向かう事にした。



「来たか」

「はい、只今。わざわざ呼び出すなんて何かあったんですか?」

「特殊な伝達があってな。……まずは貴様に知らせだ。生徒の成績状況について……つまり枷が外れるか見込みがあるか否か、ゼウスから報告を受けた」

「は、早いですね。そんなにすぐわかるものなんですか?」


あぁ、なるほど。俺たちはそういえば枷を外して、この学校を卒業しなければ、ならなかった。
すっかり忘れていた。


「全能の神であり、この学園を創造した者だ。少しの変化で把握できるのだろう」

「で……どう、でした?」


あぁ、とても嫌な予感がする。この間のこともあるから余計に。


「現状維持のまま進行すれば、問題なく生徒たちは卒業できるだろう。だが、問題児が2名存在する。愚鈍、ノロマ、貴様らだ」

「え……?」

「……」


草薙さんが驚いたようにトト先生を見ていた。俺と月人さんは特に反応もないけれど。
そうか、やっぱり、俺は卒業ができないらしい。仕方ない。


「なぜです……?どうして月人さんと宋壬さんが問題児なんですか?生徒会の活動だって、宋壬さんなら部活動だって、寝ていても、授業にはきちんと参加しています。」


まぁ、俺は寝ているんだからどうかと思うけれど、草薙さんは納得がいかない、という様子だった。


「理由?そんなものは貴様で考えろ。愚鈍、ノロマが問題児であると判定されたが、その理由は誰にもわからん。卒業の見込みがない。判明しているのはその点のみだ。草薙、貴様はこの状況を打開するため、本日より愚鈍、ノロマの面倒をとくに見ろ。そして、卒業へ導け。……任せたぞ。話は以上だ」

「まだお聞きしたいことが」

「伝える情報は無い」

「ですが!」

「去れ」

「…………………………」


俺はどうでもいいのだけれど、草薙さんは完全に困り果てたという表情をしていた。
確かに俺と月人さんがこのままでいると彼女は元の世界へ帰ることができなくなってしまう。
かと言って、俺も自分のことだけれど、どうにかできる、というわけでもない。


「卒業出来ないということは、この枷も外れないということでしょうか」


表情のないまま、その枷を月人さんは見つめながら呟いた。
あぁ、この人は、現状を打開しようと思っているらしい。
また、俺と違うところを見つけてしまった。


「いつまでも神の力を抑えつけられ、神としての義務を全う出来ないのは困ります」

「一緒に協力して頑張りましょう」

「…………………………」


草薙さんがそう声をかけるも特に返事はなく、月人さんは図書室から出て行った。
さぁ、俺はどうしようかな


「……あ、お腹、空いた」

「宋壬さん……」

「……購買部、行こう?」


地味に感じた嫌という感情のおかげでさっきよりもお腹が空いた。
そう言えば彼女は困ったように俺に告げた


「ごめんなさい、今は月人さんが気になるので……」


パタパタと足音をたてながら草薙さんも月人さんを追って図書室から出て行ってしまった


(これは、俺も、追いかける、の?)


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