嫌い<否定
トト先生が図書室へ帰ってからも俺は特に考えることも無く、その場でうつらうつらとしていた
「あ、あの宋壬さん!起きてください!」
「……ん?」
「その……さっきのトト様の言ってたことは、本当、ですか……?」
さっきのというのはきっと、人間を否定しているという話のことだろう。
「……本当だよ。人間なんて、欲の塊で、醜いだけ。欲するから、長生きして、最終的にヨボヨボになって、死ぬ。……それも、お世辞にも美しいなんて言えない様な死に顔で」
だから、俺は早く死ぬことを望む。できれば安楽死で。
それこそ、意味のわからない、欲な気がするけれど、それでいい。
毎日、何もしたいと思ったこともなくて、同じ時間をただひたすら繰り返しているだけの俺に、生きる必要と意味はないのだ
「そんな……」
「それに……誰かを想うことを人間はしたがるけど、それは……ただの自己満足だし、俺にそんなことをする余裕は、ないんだ」
愛や恋なんて、所詮己を満たすための人間の編み出した術。子孫を残すためでもあるかもしれない。
そんなことしてたら、俺はいよいよ何もできなくなる。
そう、限られた時間の中で俺はただ流れにふわふわと乗っているだけ。
「……宋壬さん……」
「……あ、ごめんね。こういう話、皆は嫌がるからしちゃ駄目だって、冷慈に言われてたんだった……」
「あ、いえ……」
冷慈は忙しい人だ。自分も大変なのにそれでも尚他人への配慮をする。
むしろ多忙すぎてる。その分時間が早く流れて、早く年老いてしまいそうだな。と毎回想うけれど、俺のことではないのでそれを指摘したりはしない。
「じゃあ、俺、戻ってもいいかな」
「あ、私も戻ります……」
「……お腹、空いたな。今、頑張ったら」
偉い神様と話すのは大変だ。とても尊敬するけれど、話すためには力を使うから。
あぁ、もっと、寝ていたい。
ゆっくり流れる時間の中で、時が流れることを忘れたい。
働くことも勉強したことも、全て死んでしまえば無へ還る。
(あぁ、なんて虚しいんだろう、人間って)
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