深夜スケッチ
「「……」」
夜、月が驚くほど綺麗なここで俺はただじっと月人さんを見ては描くという作業を繰り返していた。
その作業を繰り返して、何枚も絵を描いている
「……」
綺麗だと、思った。じっと見ていて、気づいたから。
この人は、色がない。透明だ、と。冷慈を色で例えるなら眩しい水色。時々濁ることもある危ない色。
俺は赤。禍々しい見てられないような嫌な色。
誰にも捕まらないように、逃げるための色。
「……。綺麗、ですね。月」
「……君がそういうならそうなのでしょう」
「……俺のいたところはもっと月が遠くて、綺麗とは思えませんでした」
眩しかったんだ。何色でもなくて、綺麗なこの人が。月を見るだけ、それが使命であって義務。でもそういうのは俺にはなくて。
中身がスッカラカンで、どうしようもない俺よりもずっと上の存在。
「そうみとおれな、ぜんぶはんぶんこなんだ!だから、そうみはそのままでいい!なにもできないやつじゃない!」
そう。俺と言うなの他人を守るためにわが身をいつまでも犠牲にしている冷慈はとても、愚かだと俺は思う。俺なんか守る必要はないし、そのために冷慈が俺以外の人間を嫌っているのはどうかと思う。
そんな俺の幼馴染とも違う、この人は、生まれたときからたったひとつのことのために生きていて、凄い。
「……すごい、んですね。神様って」
「そうでしょうか。俺にはわかりません」
「すごいですよ」
綺麗に光る月が、月人さんを照らしているところがまた綺麗だなぁ、と思いながら俺はまたペンを走らせた。
今日は気が済むまで描こう。
「……今日は、楽しそうですね」
「え?」
「日白義宋壬、今日は楽しそうに見えます」
「……楽しいのかも、しれません」
(全部半分こだから、今頃冷慈も楽しいのかもしれない)
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