劇場への来客



パリーンとガラスの飛び散る音がし、別の場所にいる【本物】の冷慈は腕を血まみれにし、時計を壊し、針を抜き取った。


「……っ……これで、いいのか……」

『うん、正解だよー。ね、【祢音】』

『そうそう!だってその【終幕】を【裏舞台】に届けなきゃいけないからね!』

『ご主人様〜知ってる!?』

「へっ!?」


【主人】の役だったのか、とルアはいきなり【洸】にそう問われ、驚きながらも返事をする


『この【表舞台】にはね!役が【足りない】んだよ!【役者】の人とね!私達【観客】とね!』

『【迷い人】なんだ!』


【樹】は笑顔でそう告げれば、双子らしき【眠杜】と【此杜】が舞台についている、戸の一つを開けた。

そこにいたのは……


「……誰だ、アレ……」

「……」


ルアが呟く。見覚えのない、二人組が佇んでいた。


『【こっち】に来る嵌めになるとはな』

『まぁまぁ【サイシ】そんなにカッカしないで、ね?』


「「「「「「「!?」」」」」」」


この場にいない【双子】の名前を聞いた。灰色の長髪を横で一つにまとめた眼鏡の男性と、黒髪短髪の優しそうな男性。

どうやら、灰色の髪の短気そうな方が【彩詞】のようで、優しげな黒髪が【哀詞】らしいのだ


『……ジッロジロ見てんじゃねぇぞ!』

『あぁ、ほらそう怒らないってば。ほら、【教えてあげなきゃ】』

『……ははーんそういうことかよ。お前等か』


どうやら彼等がこの場所での【迷い人】らしい。
血塗れの腕をした冷慈を指差し、【サイシ】は言う


『時計の針を【奪った】ここまでは、【台本(シナリオ)通り】ってか?……その針、落とすんじゃねぇぜ?』

『一本でも【亡】くしちゃったら、【二人とも】【報われない】んだよ?【長針】は【あの子】、【短針】は【あの子】。止まってる【裏舞台】を動かさないと、救えない。救えなかったら、【君達】は【棺】の中。【彼等】は【主役】で【永遠に繰り返す】』

「お?お?ちょっと、待ってくれ!なんかとりあえずわけわかんねーからメモするわ!」


呑気にそんなことを言う、ルアと裏腹に、宋壬は呟いた


「……二人って、もしかして……【彩詞】と【哀詞】?」


ご名答。と言うように【観客】と【迷い人】は怪しげに笑顔を作った。
そして【役者】の彼等へととあるものを差し出す。


『役にたつと思うよ!気をつけてね!【あっち】は気性が荒いんだよ!』

『まぁ、【覚えていなくても】使えるだろうからな』

『上手に、摩り替えるんだぞ!失敗した【エンドレス】なんだからな!』

『まぁ、君なら、大丈夫でしょ。がんばって』


上から【祢音】【壊】【樹】の順で、柊、グルーガン、宋壬へ凶器を渡す。
大剣、ピアノ線、日本刀。
【釣人】だけが、冷慈の手を握り、微笑んでいる。


『君は、【針】があるからね』

「は……長針と短針……?」

『そう。絶対に、離しちゃいけないよ。【裏舞台】の時間を動かすまでは』


そして、残った3人へも【洸】【眠杜】【此杜】が凶器を手渡した。


『……【自分】を見ても、これ以上【間違い】をしちゃ、ダメだからね』

『……【レナちゃん】、だいじょうぶ。おれ、いる』

『【舞台】に【魅入られないように】な』


ルアへは棍棒が、麗菜へは銃が、美月には拳銃が手渡され、意味深な言葉とともに、【表舞台】のセットの、窓から突き落とされた


「うわぁあああああああああああああ"!!!」

「ぎゃあああああごめんなさぁあああいいい!!!!!!!!」

「あっはっはっは落ちてるー!」


その様子を見て、残っている4人が青ざめていた。
まさか、自分達も、ここに突き落とされるのか。【舞台】のくせにどれだけ下が長いんだ。と。

そう、この先に何があるか、誰も知らない。
知ってしまったのは【彼等】だけ。


「おいおい、冗談だろ……」

「わーお……ここ、飛び降りなきゃいけないのかな?」

「…………マジかよ」

「……いきます」


宋壬は何を思ったのか、特に恐がる様子もなく、日本刀を持ったまま、その窓枠へと歩いていく。
それに慌てて冷慈もついていく。


「……あ、そうだ……。これ、ありがとう。【樹乃ちゃん】」

『だからそんな名前じゃない!私は【樹】だよ!』

「わかった」

『わかってないな、絶対!』


何故か茶髪の少女を己の愛している少女の名で呼び、宋壬はスッと窓から飛び降りた。冷慈の首根っこを掴んだまま


「う"ぁあああああああ……」


半泣きのような冷慈の声が遠のいていく。
それを見届けて、柊とグルーガンは溜息をつきながら、【観客】のほうへ視線を向けた

確認事項は山のようにある。と。


「……、お前、【ネメシス】で、あってるのか」

『ううん、違う違う!【祢音】だってば!あ、そうだ、君さ、さっきの【終幕】の封筒、もうっかい、中身確認してみて!』


まるで語尾にハートでもつけるかのような言い方をしながら、柊のゴシック調の衣装のポケットにいれられている封筒を指差した。
なんでわざわざと思いながらも、言われたとおり柊はその封筒からまた【終幕】の書かれたはずの紙を取り出した。


「……【1932年、毒薬を大量に投与され【満田 柊】は永眠】……なんだ、これ……」

「ちょ、ちょっと、待って。俺の方も、だ……【1932年、同日恋人の命と引き換えに【グルーガン=ルレット】は永眠】……。こ、これって、ねぇ、柊……」

「……これが【終幕】か。【こっち側の俺】の」



『早く行かなければ、【終幕】がないならば、【主役】も【役者】も、舞台が終わらない。ほら、早く、いけ』

「え、ちょ、っと【壊】ちゃん!?」

「!!?おい!グルーガン!」


二人が中々降りないことに痺れをきらしたのか【壊】がグルーガンを突き落とした。
それに手を伸ばすように、柊も一緒に先の見えぬ暗闇へと落ちていく。


(完璧に仕組まれた台本(シナリオ)通りの【復活劇】)


- 7 -


[*前] [次#]
[]







×