夢の裏




『今宵世界を飼い慣らすように、主役(きみ)の舞台の虜にして?統べるように掴み取れ【台本(シナリオ)通り】のEncorE』


愉快に歌いながらメイドが次から次へと洋菓子を運ぶ。
さぁどうぞ、と執事が全員へワインを注いでまわる


『こんなに素敵な夜は他にない。さぁ、ゆっくりと楽しまれてください。【完璧な夜】を【永遠】に』

「……宋壬……?」

『はい、なんでしょう?そうだ、貴女にはこれがお似合いでしょう』


樹乃の知っている宋壬とは真逆の胡散臭い笑顔で、彼は近くに飾られていた桜の枝から生えた花を髪飾りのように樹乃の髪に飾る

彼によって千切られたはずの桜の枝からは、また花が咲いていてもうどこが千切られたかもわからない


(……おかしい……っ!こんなに早く咲くわけが……)


『そんな深刻な恐怖に飲み込まれそうな表情をしてはいけません、ここは【悪役】の【舞台】……。つけ込まれてしまっても、いいのですか?』

「さっきの執事と言い、お前も……【舞台】とはどういうことだ」


しっかりと話を聞いていたらしいモリガンが流石の威圧でソウミへと詰め寄る
普段の彼ならその威圧に負けるだろう


『……はは、言ったはずです。【悪役】だと……。貴方方は、さしずめ、【観客】の予定だったのです』

『それがノコノコと【舞台】に上がって来ちゃったねー、俺は楽しいからいいんだけどぉー』

『【主役】がこねぇなら、アンタ達が【主役】になってもらわねぇとなー!』

『【台本(シナリオ)】とは随分違うお話になってしまったようですが、これはこれで愉快ですね』


「え!待って待ってー!一気に言われてごちゃごちゃしちゃった!!」


混乱をしたらしくネメシスがその説明を一旦とぎる
混乱をしないほうが無理な話ではあるが
その間も寿斗とタナトス、モリガンは話を理解しようと頭を働かせている


「……【主役】とは、誰のことを指しているんだ」

『……秘密、ですよ。いずれ分かります今の【主役】の貴方方が【真実】さえ見つければ』


さぁさぁ。と執事が食事を取り分ける
逃がさないと言わんばかりに席へ座らせ配膳すれば、綺麗なワインをグラスに注いでまわる


「ルーちゃん!このご飯美味しいねーッ!」

『ははそうだろ?好きなだけ、食えよ』

「レーちゃんの……ご飯がいいの……」

『え……ごめんね。私はここじゃ料理できない【役】なんだ』


ルアとレナがニコニコと見物をする
そのすぐ横にミヅキが佇んだまま無表情でタナトスを見つめていた


「……」

『…………』


何故か、無表情の中に憂いのような哀しみのような何かがある


(……一筋縄じゃいかない。ってことか)


その三人だけ、血の気のない肌色で、見た目もそのままなのも不思議で仕方がない


「ルアルアレナレナもミヅミヅも生きてるー!?顔色わっるいよー!」


ムードクラッシャーのネメシスが、いつものテンションでミヅキの手を取り、即座に驚きの表情へと変わった


「……ミヅミヅ……!?どうしたの!?すっごい冷たいよ!?」

『……ふふふ、さて、どうしてでしょう?』


稲光りに暴雨風が、窓を揺らす。
光を宿すことをやめた生気のない目をした三人が酷く冷たく笑った


『『『俺達の【×】を探し当てれば全てが分かるよ』』』


なんの迷いもなく、ルアがソールの手を取り己の心臓部へと持っていく

途端に青ざめていくソールを見て、少し哀しげに微笑んだ


『ようこそ、Bad Endの後の夢の中へ』

『動かない心臓を持った、偽りの世界。でもね、この世界に本物が眠ってる。さぁ、記憶を巻き戻してごらんなさい。どうして貴方方は【此処】へ迷い込んだのかしら』


演技なのかレナが妖艶に微笑みながら挑発するように告げる

【現実】とリンクした【裏の世界】


「……どうして……」

「……僕は……」

「……!そうだ……!せんせーだよ!」


どうやらネメシスだけが思い出したらしい。この【裏の世界】へ迷い込んだ理由


『……えー俺もう時間切れー?あ、でもまだ【真実】は見つかってないんだったねー。頑張ってぇ。【祢音ちゃん】』

「うんわかったー!!【祢音ちゃん】って名前じゃないけどねー!」

『そりゃそうだよーここは【舞台】であって【夢の中】なんだから』

「……ヒュプノスも、夢の中……なの……?」

『ヒュプノスくん、ご名答よ』

「……レーちゃん……」


ヒュプノスも、思い出したのか、麗菜ではないレナを見つめる
モリガンと寿斗が考え込んでる横で樹乃はソウミへと質問を投げかけた


「【夢の中】って誰の夢の中なんだ?」

『……いい質問ですね。お答えをするなら本来の【主役】だったはず方の【夢の中】なのです。思い出された方から、【真実】を探し出してくださいね?』


ダッとネメシスが走り出し、その後を若干眠そうにヒュプノスがついて大広間のようま部屋から出て行く

ヒイラギとレナがニタリと口角釣り上げ、小さく呟く


『『早く、【×】を見つけてね』』


(見つけた人には選択肢が待ってるよ)

(エンドは3つ。どれを選ぶかは【主役】次第)



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