紅葉の蔦
「アンタ、俺の嫌いなタイプだ」
「れーじ?酷い……」
「ほら、そういうとこだよ。まるで悲劇のヒロインぶってる近頃の女みてーなさ」
そういう冷慈の目は嫌悪にまみれていた。
美月にルア、小柚希ですら、一瞬間違えた目の前のこの女は、"アイツ"ではない。と冷慈の言葉によって確信を得る。
「ま、そういうわけだ。悪いなお嬢さん」
「柊さんまで……そんなんじゃないのに!」
「残念だ、とても残念だよ……レナレナはディディを"殺しちゃった"なんてひどいことしないし、言わないよ!言わないんだ!」
「周りの正義やら体裁やらを気にして生きてきた子だからね。エゴに揉まれてもそれでも、自我を持ってた強い子なんだ」
「つまり、お前は本物、ではない。ということだな」
「……ふふふ、あっはっはっは!だいせかーい!なぁんだ、もうバレちゃうのー?つまんなぁい」
冷えた目で愉快そうに狂って笑い出す彼女に一同は困惑の表情と冷めた目をむける。
これ以上喋るな、といわんばかりに柊が威圧をかけてもひるむことなく、お喋りな彼女は真実を語りだす。
「あのねぇ、殺したのは本当にお姉ちゃんだよー?皆の大好きだったお姉ちゃん!でもね、お姉ちゃんはね、皆が大嫌いだったの!なんで、あげてばっかりで誰も私に見返りをくれないの?ってね!最低じゃない?こんな人!だからね、お姉ちゃんの大事なものと一緒に、お姉ちゃんにもちゃーんと、"シツケ"してあげただけなの!"いい子"だからね私っ……え?」
「そこまでになさい。このドクズ」
「おーおーおー、やりたい放題、だなぁ」
いい子、と言った瞬間、彼女の胸に全員にとって見覚えのある剣が突き刺さっていた。
その持ち主の草薙結衣は柊によって視界を遮られていてその一部始終を見てはいないが、音声だけは綺麗に聞えていた。
「な、んで……?」
「そんな"イイ子"を望んだ記憶はないのよ、引っ込みなさい紛い物!余計なことしなくていいのよ!娘を返しなさい!!」
「あっはっは……もう、無理だよ、おかー、さん……お姉ちゃん……自分で、選んだ、んだも、ん……」
「あら、そう。でも、私は貴女を許さないわよ。クズ守り神。いいわよ。この二人が、これからここの守り神になってくれるよう、安らかに眠っていられるように残ってる邪気のアンタごと、二度と這い上がって来れない位置まで連れて行ってあげるわよ」
「あらぁ、メグ、こっわぁい」
娘を亡くした母親がキレて、邪気を突き刺し散々罵倒を繰り広げる一方で父親はまるであきれ返ったように二人を隔離している蔦へ手を触れる。
その瞬間、その蔦が葉をつけ、赤黄色黄緑の色へ変わり、葡萄の実がなっていた
秋を司る百虎神と豊穣の神を称えるかのように綺麗に紅葉し、実らせている。
「そいつのことは手のつけられないばーさんにまかせるとして、お前等はこいつらにお祈りでもしちゃれ。アーメン、だっけな?」
「……兄さん……」
「親父!!姉ちゃん死んでんだぞ!?」
「……そらぁ、な死ぬくさ。あいつも"人間"だからな。いつどこで死んだっておかしくはねぇだろ?……いいじゃねぇか。本人がやっと見つけた心の拠り所と一緒に眠ってんだ。そのままにしてやれ。あ、あとでそこの葡萄持ってきてくれ。俺が食う」
(そんな皆の本音を聴くよりも先に深い眠りについた少女にはその声は何一つ届いていなかった)
(「私にはこの人しか味方がいないの」と亡骸同士寄り添って永眠する"エゴイスト"の短い生涯のお話)
fin.
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