邪気神様

何か、ディディとあの子の声がぼんやりとだけ聞えてくる
半分意識が泥沼に浸かっている俺にはなんだかわからないけれど。


残り半分の思考を使って蔦にボンヤリと耳を這わせれば外の会話が小さく聞えた


「……−−じゃないでしょ君」

「なんで、そんなこと言うの?こんな"俺"は嫌い?」

「え?」

「ディディ、こっちのほうが、好きでしょ?」


俺の出したことの無いような、媚びた声が、ディディの驚いた声が聞えた、それは俺じゃないと言おうにももう思考がうまく回らなくて、混乱さえしてきた。

これを一瞬でも望んだのは、確かに俺で、でも、こんなことになるなら……と無意識に表情も無く泣いてしまった。

泣けば泣くほど、空気を吸ってる気がしなくて、完全に何か、粒子を吸っている。
足先からゆっくり緑色に染まっていくのを見ながら、少し、理解した。

(もうこれ逃げれないよ)


どうやらこれで、俺も蔦の一部になってしまうらしい。


「……やっぱり、違うでしょ。君じゃない、オレの知ってる麗菜ちゃんは」

「……え?」

「あの中に、いるのが、麗菜ちゃんでしょ。君はあの、おちびちゃん」

「……そうだよ……今気づいたの?もうね、遅いの。お姉ちゃん皆を守るために死ぬから」


あぁ、やっぱり。と聞えてきた会話で少し脳が覚醒した。
多分、それはディディが俺の居場所に気づいてくれたから。毎回毎回どうしてこうも優男なんだろう。

そう、俺だから最期まで"他人のために生きていなければ"いけない。
感謝してよね。と中々なことを思いながら、また自分からゆっくりと目を閉じる。


(気づいてくれた、レナちゃんより俺を探してくれた、もう充分、だよ)


これ以上を望んだらきっと罰が当たるから。
泣いてるのは助けてほしいとかじゃなくて、好きだと言えばよかった。っていう後悔だけで。
でも、もういい。喋るのも、億劫だし何より、こんな蔦の中で徐々に緑色に染まっているこんな状態じゃ、何もできないし百虎だって外だし

(……最期にまともな恋愛したかな。多分。いや、でもアレ、まともか?神様だしチャラいし、チャラいし、優男だし。……男見る目ないなぁ)

あーあ、残念。なんて思いながら考えることも止めようと思っていたときだった


「……死なせない。麗菜ちゃんだけ死なせたり、しないよ」

「……危ないから、やめようよ!」

「この状況にしたのは、君でしょ?……最初から、このつもりだったんだよね?」

「……ちぇー。バレてたなんてつまんなーい。お姉ちゃんはあんなにあっさり引っかかってくれたのになぁ。私はねー、今は邪気そのものだもーん。あのお姉ちゃんそっくりでしょ?」

「顔はね、一瞬間違えそうになったぐらいには似てるんじゃない?」

「ふふふー、すっごいんだよー!私ね!邪気だし、守り神様なんだよ!ここの!」

「え?」


守り神?邪気なのに?と聞えた言葉に再度混乱した。
どういうことだろう、と頭を捻るけどやっぱりボヤっとしだしてきて理解はできない。


「ずっとね、邪気を封印してたの!でもそれを解いたのはあのお姉ちゃん!だからね!また封印しなきゃいけないの!お姉ちゃんが、いい子になれば浄化できたんだよ?でもお姉ちゃんがずーっと悪い子だから、こうなっちゃっただーけ」


なるほど。それで、私を指差したのか。お父さんは。と今更納得した。
つまり浄化できませんでしたよ、と。そりゃそうだ。いい子じゃないから生憎。


「守り神のはずの私がぜーんぶ邪気吸い込んじゃったからね、私が邪気になったんだよ!だから代わりの守り神様が必要なんだよ!」

「……まさか……」

「そう!責任とらなきゃね!お姉ちゃん、だからね!」


(そうね。わかってた。俺、お姉ちゃん、だから。一番、悪い子だからね。任せて。いくらでも責任ならとるよ)

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