語る心境

「ほんと、誰にも言うなよ……?」

「もちろん」


誰にも言わない。と言ってくれたディディに一応もう一押しして、言うつもりもなかったことを、俺はこの優男に乗せられて話すことにした


「……あの子は俺で、それで、まだ、"壊れてない"んだよ。皆が見てる俺は本当は人間としても底辺にいるような奴で。……あの子は、"マトモ"だから、俺みたいに道を踏み間違えないようにこうならないように、って……。最近、あの子が、俺がなりたかった……ならなきゃいけなかった姿になってるのを見てると嬉しくなった。これで、親の望んだ"イイ子"の出来上がりだ。って」

「……親の……?」

「そ。大変なんだよ。レッテル貼られるのも、過度な信頼と期待をされるのも」


ほんの少し曇ったディディの顔を見て、やっぱり話さなきゃよかったと思った
こんなのきっと理由にもなってない。だって、俺は"私"を俺の思い通りに動かしているだけだもの


「あ、ごめん。早く帰んないとみづ達がうるさいから帰るわ」


居心地が悪くなって、そそくさと逃げてしまおうと適当に理由という名の嘘をつけて、立ち上がろうとした時だった


「!?ちょ……!」


ガッと腕を捕まれて、俺よりも綺麗な細身の筋肉質の身体にすっぽりと収められてしまった

当然脳内の全俺が混乱をして、言葉も発せなくなる
息すらするのも忘れそうだ


「オレ、バカだから上手くは言えないんだけど……。もう少し回りに頼ってもいいんだよ?麗菜ちゃんは」

「は……何を言い出すかと思えばー……」


人に頼るなんて、そんな責任転換をするつもりなんか最初から毛頭もない
後から面倒ごとになって結局自分が謝らなければいけなくなることは分かってる。

世の中そんなに甘くなんかないんだ。確かに自分の周りの人は、そうやって他人に何かをお願いして協力という名の同調をしながら生きてはいるけど


「この間だってそうでしょ。一人で音楽室に閉じ込められてまでしなくてもよかったんだよ。それこそオレとか連れて行ってくれたら手伝えたでしょ?」

「……も、わかったから……黙ってよ」


これ以上言われたら、泣いてしまいそうだった
ずっと我慢してた言葉をうっかり言ってしまいそうだった

"手伝ってくれたっていいのに"

"なんでも出来るわけじゃない"

"しっかりしてるわけもない"

"強くない"


そんなことばかり言いたくても、周りには"強い"だとか"しっかりしてる"だとか"なんでも出来る"だとかばかり言われて、ついたイメージを拭うことも出来なくて
せめてもの反抗のつもりで、親の前だけで、少し力を抜いてれば同じ間違いを繰り返してしまって、なんで長女なのに出来ないのともはや罵りに近いような圧をかけられて。
次第に我慢することが当たり前で、積み重ねすぎていくつもの思考を持って、それがこんがらがって、どれが自分の本音なのか自分でも分からなくなるほどに崩れていた


「……。オレ頼りないかもしれないけど、好きなコ一人ぐらい守れるから、ね」

「うるさい……。大丈夫だし、出来る子なんだからさ、俺。それ知っててそんなこと言うのか。目、悪いの?」

「それ、嘘でしょ〜?もういいよ。頑張らなくても」


頑張らなくてもいい。その言葉を聴いた瞬間に情けないほど、涙が頬を伝いだした
あぁ、こんな奴に言われたって嬉しくもないはずなのに
……ちがう。嬉しくはない。でも、痛い

俺は、頑張らないといけないのに。誰ももう甘やかしてなんかくれないのに。
他人の思うように動いてあげて、甘やかしてもあげてきたのに、誰も俺のことを甘やかしてはくれなかった

だから、そう言われても頑張らない方法がわからない
せっかく、甘やかしてくれようとしてくれてる人がいるのに


(他人に俺が、それを求めると、その周りのグズと俺が一緒になっちゃう)


「っ、いい……っ、大丈夫」

「何が大丈夫なんだよ……。頼むから、教えてよ。麗菜ちゃんがなんでそんなに、強がってるのか」

「だって、ここで、俺が縋っちゃうと、今まで俺に縋ってきた、奴等と同じになっちゃうから……。自分のことしか考えてないような奴等と一緒に」

「違うよ。麗菜ちゃんは今まで頑張ってきたから、それをやめるだけでしょ。縋るんじゃないよ。だから、違う」


(もうだめだ。コイツには敵いそうもない)

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