迷宮入り

「え!?知らないの!?」


あれからやっとこさ、ゼウスさんを捕まえて、話をしてみれば、ゼウスさんも知らないと首を横に振った
もちろん、ゼウスさんが知らないのに教師陣が知るわけもなく……


「……お前のチビんときか……」

「厄介だね」

「……私には関係はないな」

「おい、教師陣、もう少し親身になってくれよ」


結局、頭のネジ飛んでる俺の幻覚かもしれないので、もう少し様子見という結果になってしまったわけだが
ほんとに幻覚だったら俺、ヤバイ奴なんじゃないのか

そう思いつつも、今日もまた、会いに行くんだけど


「あ、麗菜ちゃん、今日暇だったら」

「ごめん!暇じゃない!」


ディディがよく遊びに誘ってくれるのをお決まりの言葉で断わって、走って校舎を出て行く
ルアからは何かにとりつかれてんじゃねーのなんて不気味なことまで言われた
もしかするとそうなのかもしれない

でも、あの子は俺の欠けたものを持ってる
会うたびに、俺のようにならないように、道を正してあげたくなる

そのまま、"お利口さん"なまま育って

そんで、今の俺を代えて


「お待たせー……レナちゃん」

「お姉ちゃん!」

「今日はね、お弁当あるよ。食べる?」

「食べるー!」


作ってきていた弁当を広げて一緒につつく
自分で自分の好きなものだけをたくさんつめてきた弁当
あえて嫌いなものも1つだけいれてきた


「ほら、レナちゃん、トマト食べな?」

「……う……きらい……」

「だめ、食べないと。好き嫌いする大人はかっこ悪いよ?」

「……大人じゃないもん」

「うん、でも、大人になりたいんでしょ」

「……」


本当に泣き出しそうな顔をしながら、トマトをパクっと口に入れて、半泣きになりながら飲み込んだ
食べたわけではない。飲み込んだぞ、この子


「よしよし、えらいえらい」

「おいしくないぃいい……」

「ね、トマトおいしくないよね」

「うん……」


「じゃあ、葡萄なんてどぉ〜?おいしいよ?」


不意に俺たちの間、背後から葡萄が伸びてきた
まさか、と思って振り返れば予想的中で、ディディがいつものヘラヘラとした顔でそこにいた

こいつ……ストーカーしたわね!?
なんて呑気なことを思いながら、伸ばされてきた葡萄を手にとる


「ん、うま」

「でしょ〜?はい、オチビちゃんも」

「……ありがとう、ございます!」


嬉しそうに葡萄をもらって食べているレナちゃんを見てつい顔が緩む
いくら自分の幼少期とはいえ、チビっこってかわいいもんである。
あ、決してナルシストではないよ


「葡萄おいしい!」

「よかったね」

「うん!レナね、お兄ちゃんとお姉ちゃんみたいなお母さんとお父さんがほしかったなー!」

「「!?!?」」


唐突なその発言に思わず咽た
なんだなんだ幼少期俺。どうした


「お母さんすぐ怒るし、恐いしお父さんも恐いもん。やだ」

「ゲッホゲホッ……あぁ、なるほど……そういや、嫌だったな……」

「あぁ〜俺と麗菜ちゃんの子供かぁ〜!かわいいな〜!」

「抜かせ。殺すぞ?ん?」

「あ〜ほらほら冗談だからちっちゃい子の前でそんな恐い顔しないの〜」


俺が馬鹿を言っているディディの胸倉を掴んで、詰め寄っていれば後ろでレナちゃんが笑っていた


「ふふふ!仲良し!」

「ねー、オレと麗菜ちゃんってば仲良しさんだから〜」

「!!まぁ、仲良しは否定しないけどもな……」


(まるで子供の頃に夢に描いた、理想の家庭像みたい)

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