文化祭の早朝の悪夢

「あばぁ……おはよう……」


気づけば文化祭当日の朝、寝起きが弟よりも数倍悪い俺は完全にキレる寸前の状態で登校の準備をしていた
それに気づいているのか、みづも兄さんもよっては来ない


「先、行く」

「あぁ、行ってらっしゃーい」

「うん」


特に理由があるわけでもなく、準備を終わらせて早々部屋を出て行く。
朝飯は今日は食べない。そんな気分じゃない


(とりあえず外……)


食堂にも楽しそうに騒ぐ生徒に目もくれず、外へとフラフラと歩いていく
早起きしたおかげで時間はあるわけなので、ちょっとだけ遠くまで行くことにした






「……こらまた物騒な森だなぁ……」


来た道は覚えてるものの、思ったよりもおぞましい森の中を一人で練り歩く
若干チキンなので、少しの物音で飛び上がります。
そんな、恐いとかじゃないわよ


「……お姉ちゃん、だぁれ?」

「!?!?」


大丈夫だと思った直後、いきなり背後から声をかけられて飛び上がった
恐かった、実にホラーだ、と思って深呼吸をしてゆっくりと振り返って思わず目を見開いた

子供がいた。子供といっても、多分小学生。高学年くらいの
それに、この声もこの容姿も俺はよく覚えている


なんでって、この子は"私"だ



「……うそだろ」

「?お姉ちゃんも迷ったの?」


まだ、女子らしい容姿の幼い自分が目の前にいる
どういうことかと頭を抱えるも答えが出るわけもない
分かったのは、俺は今盛大に厄介なことに巻き込まれたということだけ


「……えっと、お姉ちゃんも、ってことは、迷ってるの?」

「……うん」


子供な自分になるべく優しく問いかける
幸いなことに来た道は覚えてるから、連れて帰ることはできる

でも、そもそもどうして、私がここにいるんだろう


「……ねぇ、なんでこんなところにいるの?」

「……遊んでたら、れいじとりこがいなかったの。探してあげないと。お姉ちゃんだから、レナ」

「……」


確実にこの子が俺であることが分かってしまった
だって、れーじにりこって。発音こそなんかアレだったけど、こんな言い方だったもんね俺

それに、この"お姉ちゃんだから"って言葉。よく言ってた気がする


「一緒に探そう?れーじとりこ」

「いいの?」

「うん、一人は寂しかったね?えらいね、お姉ちゃん頑張ってるんだね」


この先も背負うことになる"長女"という言葉に苦しくなる
そんなに純粋に頑張ったっていつかはこうなってしまうのに

自分が何を考えてるか、何がしたいかすらもわからないような、人格破綻者


「それでねー!ずーっと探してるの!」

「え?ずっと?」


あれからレナちゃんと話しているとあれやあれやと不思議なことばかり言っていた
ずっとここで探してるけど見つからない、とか、気付いたらさっきの場所に戻っちゃうとか

なんだろう、まるで幽霊か何かと話しているようなそんな感じ


「でもね、だーれもいないの。お姉ちゃんきてくれて嬉しい!」

「……そっか。こんな暗いとこに……ずっと?」

「まえにね、ここから出ようってしたら、出れなかったんだよ」

「え?」


ナンですか、結界か何か張られてるんでしょうか
これが自分だということを分かっているからか、この厨二じみた言葉をすべて受け入れがたく感じる
だって、俺普通に入ってこれたよ森に


「もう一回、出てみよっか。もう二人ともお外かもよ」


レナちゃんの手を握って背筋に冷や汗が伝った
体温が、ない。
まるで死体のような冷たさだった


「お外、お姉ちゃんと一緒だったら出れるかな!」

「ど、どうだろうねぇ……」


戸惑いはしたものの、不思議と恐くなかった
むしろ、まるで自分に欠けていた何かが埋まった気分


「あ!見て!お外!」

「お、ほんとだ」


森からの出口を見つけたとたん、走り出したその子は、森と外への境目のところで何かに弾かれたように、尻餅をついて転んでいた

慌てて、駆け寄って、ためしに俺が一歩踏み出してみても、弾かれることはないのに


「……だめ、なのかなぁ」

「……待ってて。お姉ちゃんが出してあげるよ」

「ほんと……?」

「うん。れーじもりこも探してあげる。だから、出れるようになるまで、ここにいてね」

「うん!」

「出れるようになるまで、毎日遊びにくるね?」

「やったぁ!じゃあここで待ってる!」

「うん、待ってて。今日は、学校があるから、終わったらすぐ来るね」

「うん!」



(どういうことか、きっとゼウスさんに聞けば分かるはず)


そう思って、全力で、学園へと走り出した
もちろん文化祭には多少遅刻しますが。



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