なんで、来たの

「ヤッホー、れーじたーん」

「……帰れ」

「えーせっかく来たのにぃ?」


放課後、そそくさと寮の自分の部屋へ帰ったのに、何故か奴は"遊び"にきた。
頼んでもいないのに。俺が惨めになっていくだけなのに。


「一人はよくないよぉ。人間らしくもっと楽しいことしなくちゃー」

「……余計なお世話」


楽しいこと、ならもう忘れた。一人で料理でもしている間が一番の楽しい時間だ。
これで楽しめなんて、追い討ちだ。なんのために俺が逃げずに今まで俺が立ち向かってきたか。
ここでも、我慢して俺は楽しんでいる振りをしなければならいのか、そんなに楽しんでいる人間が偉いのか。

(何も考えてない人間なんかただのゴミくずだろ。いやそれ以下なのか)


そう思った直後だった
目の前の奴からただならぬ殺気を感じて思わず一歩下がる
リーチの差ですぐに距離を詰められたけど

なんで急にこんなにキレたのかイマイチわからない。


「ユルサナイ……人間を、ゴミくずと一緒にするなんて、ユルサナイから……。いくら人間の、君が思ったことでも、僕はー……」

「っ……かはっ……な、や、め……っ」


すっと伸ばされた包帯だらけの手は俺の首を絞めそのまま確実に息の根をとめにきているように思えた。

(許さなくていい。そのまま俺になんか構わなくなってしまえばいいのに)

苦しいとかそんなことよりももういっそのことこのまま抵抗せずに死んでしまってもいいかもしれない
でも、それは俺の今まで築いてきたものが無駄になってしまう気がして、ガッと辛うじて奴の脛に下段の回し蹴りをお見舞いした。
そこまで力んではいないし、こんな状況で腰も回るわけがないので威力はない。
けれど奴は体力の無さゆえなのか崩れるようにして倒れた


「っ……はぁ、はぁ……っ」

「……っ、いったいなぁ、もぉ」

「……うっせ……ぇっ……」


多分、理由はなんであれ、初めて直接手を下された。
いつものように自分の手を汚さない方法ではなくて、直接。
だから余計に戸惑いが隠せない。いつもみたいに遠まわしで、陰湿ならこっちだって考えるけど、そうじゃないから。

それにこの人は、人間が好き、らしいのだ。
おまけに心が読めるらしい人の前であんなことを軽率に思った俺に当然非があるから、こうなったって不思議ではない。


「……悪い、早く、出て行ってくれ」

「んーその前に、さぁ」

「っ!」


その手が俺の首のほうへときたのを反射だけで振り落とした
さっきのが印象に残っているとかではない。今は触れてほしくない。


「駄目だよぉ、ソレ、治してあげるんだからさぁ」

「いいから!何もしなくて良いから早く出てってくれ」


これ以上はだめだ、と脳が警鐘を鳴らす。これ以上触れてはいけない。
また、俺は、信じようと思ってしまう。こんなよくわからない奴を。
最悪のシナリオがいつだってつきものなら、最初から何も欲してはいけない。


「……閉め出すことないじゃ〜ん。まぁいいやーまた来るねぇ」


諦めましたと言わんばかりの言葉を残して消えたその人につけられた跡をゆっくり指でなぞる
苦しかった。息ができないとかじゃなくて、心臓が抉られるように痛かった。

構わなくなればいいのに。と締められながら思う反面、これが原因でまたあの世界みたいになっていくのかと不安が広がって、また嫌われたのかと思うと痛くて堪らない。

それでもあの人は言った。自分がつけてしまった跡を治すとか、また来るとか。
あぁ、なんでそんなことを言うんだろう。
よくわからないけど安心してしまった。また来るということは少なからず嫌われたわけではないように感じる。

もし、嫌われていたらー……いいや、大丈夫。

恐くない。嫌われることにも慣れきったのだ。

(そう言い聞かせなければ俺の心臓はもたない。恐くない、一人になることなんかもう随分前に慣らされてしまったから)

(全然違うのに、まるで僕みたい)

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