かくれんぼ
「……参ったな」
「センセー!センセー!レイレイってばどうなっちゃってんの!?私の言うことも睨まれちゃうんだよー!なんかあったんだろうから、特に気にしないようにしてるつもりなんだけどさ!」
「……あいつは、学校が関わるものが好きじゃねぇんだよ」
俺の退いた学園長室の隅でそんな会話が流れているとはさぞ知らず、俺は主のいない保健室で現在進行形で寝ていた。
今は休み時間だが、残念なことに俺に遊ぶような相手は、いない。
というか、いてはいけないのだ。
(わからないから、嫌だ。……どれだけ俺が信じたところで、きっとそれもまた、いつもと同じで無駄になることなんか、目に見えてる)
捻くれた思考だということは理解している。でも、これが現実だということも痛いほど、死にたくなるほどに味わった。
「……、何が楽しいんだろうな」
どれだけ耐えてがんばっていても、これから先俺はずっと耐えなければいけないのかと思うと息をすることすら苦しくなった
荒い呼吸を繰り返していれば慌てたように柊さんが入ってきて、俺の口元に紙袋のようなものをガッと押し付けてきた
いてぇよおっさんめ。
「ゆっくり、呼吸しろゆっくり」
言われるがままゆっくり吸って吐いてを繰り返せば、少し楽になった気がした。
落ち着いた呼吸に安心して、頭の片隅でまた考える。
(大丈夫、まだ、大丈夫。他人に頼るなんて馬鹿なことしねぇ)
一人で生きていけると思っているわけではない。でも、こんなことを他人に話したとして、未来が変わるなら、とっくの昔に現状が変わっていただろうに。
「もう、大丈夫だから、ありがとう、柊さん」
「……あぁ」
「俺、行くわ」
居づらくなって、ベッドから出て行けば、ヤッホーとネメシス(先生)が手を振ってきたからそのまま反応せずに外へと出た
教師も、嫌いだ。何もしてくれないから。ここは違うのかもしれないが、結局行動心理なんか人間も神もきっと変わらない。
「なんでだよ!!俺がやられたって言ってんのは、口実だけだから証拠になんねぇのに、あいつ等が!「やってねぇ」って言ったらそれは、本人が否定したから証拠になんのかよ!!おかしいだろ!」
「落ち着いて、満田……」
「うるせぇ!黙れよ!何回言えば、俺はあんた等に……っ……いや、もういい、もういい!お前等なんか頼った俺が馬鹿だったんだもんな!!」
「満田!」
「……、なんで、上手く回らないんだよ……理不尽過ぎるだろ……俺が、悪いんか……」
結局俺の主張なんか、言うだけ無駄なものらしく、この世の中は悪のほうが偽善を被るせいでどうにもならないようだ。
もういっか。考えてもどうせ意味はない。こんな世界じゃ。
「……。ここで変わるんなら、俺は、俺は……」
言いかけて、やめた。どうせ変わらない。何度も同じ事を思って打ち砕かれてきたのに。
また信じようとしている俺を振り払う。もうだめだ。信じては。
これ以上は俺が崩壊していく。
嘘を、偽善を見すぎて今の時点で俺の精神はその二つがゲシュタルト崩壊を起こしているというのに。
もう嘘がなんなのか偽善がなんなのかすら、分からない。
「……」
ぶつける場所のないストレスは発散される場所がどこにもない。ぶつける理由も、ない。泣き叫べるような正常な心もなくなった。
心の拠所なんて、なければ周りの言う"運命の人"もいなければ"何でも"話せる友人"もいない。
双子と宋壬にとって俺は"何でも話せるいざとなったら頼れる相手"なのかもしれない。
いつも何かとあれば話は聞くし、あいつらのためならどんなことだって動くから。
でも、俺は自分のことを話すのは違うと思うから。
まるで、"聞いてください"といわんばりに言ってしまいそうだから、そんな構ってちゃんではない。
それに、"被害妄想"の域できっと終わってしまうから。
外で楽しそうに騒ぐ声がした。例の幼馴染3人が狐のおニイさんに何やらされたのか粉まみれだった。
一番重症なのは哀詞。多分あいつにしかけたのに巻き込まれたんだろう。
おニイさんを追い掛け回す哀詞と飄々と避けているおニイさん。
困ったように見てる彩詞とわかってない宋壬。
「……ばっからし。無理無理」
(これ以上この光景を見るのは目に毒だ。もう嫌なんだ。何もかも)
窓の外の光景から目を逸らしその場を足早に立ち去った
まさかその光景を見られていたなんて微塵も思わずに。
(また、君はそうやって僕からも隠れるように大きく蓋をかぶせるの?)
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