信じる者
「信じてもいい?」
小さく呟いた。
幾度と無くへし折られてきたけれど、また、もう一度だけ傷ついてみよう
傷つくことを前提かと思うかもしれないけれど、もうどうしようもないのである。
悲劇の主人公ではない、現実を目の当たりにしてきたから。
「もちろんだよぉ、もう我慢しなくていいからねぇ。何があっても僕は傍にいるよぉ」
「……っ、アホ、おせぇよぉ……っ」
ボタボタと号泣をすれば、ゆっくり背後から腕を回されてぎゅっと抱きしめられて、その暖かさに余計涙腺が崩壊をした
「あ、りがとう……っ」
「いえいえー。もう大丈夫だよぉ」
いつの間にか周りから皆はいなくなっていて、落ち着くために一回、保健室のベッドへと移る
あー、泣きすぎた。
「れーじたん、僕もいれてぇ」
「うぉわ……せめぇし、あっち使えよ……」
「えーさっきまであんなにベッタリしてくれたのにぃ」
「……はよ入れよボケジジ」
「あはは、ひどいなぁ。ありがとぉ」
結局、こう言われると断われないし、さっきのもあって若干甘えたいような気がして、二人で寝る
せまいからと適当に理由をつけてまたぎゅっと抱きつかれて、なんかついでにまさぐられてる気がするけれど、泣き疲れたらしい俺は睡魔に負けておニイさんの体温に安心しながらそのまま寝てしまった。
「……平和だね。よかったよかった。これ以上馬鹿なお願いされたら大変だったな」
とある空き教室で、グルーガンは教卓に肘をついて一枚の紙を見ながら微笑んだ。
その紙こそ、彼の神としての仕事の内容なのだ。
白い用紙にフッと息を吹きかければ、手品でもしたかのように一羽の白い鳩へと姿を変える。
「……、なんだかんだでここの皆は、優しいね」
その鳩を逃がしながら教室の端、椅子に腰掛けていたモリガンに視線を向ける
「今の紙はなんだ」
「あぁ、アレね。人間の願いが書かれてるんだよ。平和についてのね」
例えば、こんな人生なら平和なのに。こんな性格だったならきっと平和だった。とか個人個人の理想の平和があるでしょ。とグルーガンは説明をする。
「それを、叶えるのも俺の仕事なんだ。平和を見させてあげること。ただ……あまりに酷いことだと、ちょっと、ね」
そういうと、どこからともなく、一羽、さっきとは違うらしい鳩がグルーガンの元へと飛んでくる。
それを、今度は握りつぶすように、クシャっとすれば、鳩は山のように白い紙を撒き散らして、姿をけした
「……恋敵さえいなければ平和か……」
その一枚を手にとって、モリガンは納得をしたような表情を見せる
「そう。そういうのは、叶えてあげれない。けど、持ち上げて突き落とすことはできるんだよ。許さない。そんなまるで、俺のような馬鹿な平和を求めてるなんて」
そういえば、この男は平和を司りながら、過去に愛していた女を殺していた。とモリガンはいつぞや聞いたはずのグルーガンの過去を思い出した。
「……憐れな奴だ。お前のような偽善者がこれだけいるということか」
「そういうことだよね。参っちゃうよ、だからそういう人には叶えてあげるかわりに、一つもらうんだ」
信用を、ね。と呟いたグルーガンは相変わらず偽善者ぶった笑みをかべている。
本当は平和を愛し、それのためだけに動いているのだけれど、過去の出来事のおかげかどうやら、軸がぶれているらしい。
「このままじゃ、俺もいけないんだろうね」
「……まだ、改善の余地はあるはずだが」
「でも、このままでもいいんじゃないかって思うんだよ。忘れたいけど忘れたくないから」
そんな会話をしながら、グルーガンは自分で祈る。
(箱庭だけでも、ここにいる皆にとっての平和が訪れますように)
自分の、平和と引き換えでもかまわない。
どうか、ここにいる悲しみや苦労や、色んなことに捕らわれてしまっている彼等皆に自分の能力が適応されますように。と。
(特に、モリガンには)
自分と真逆のものを司っているけれど、強く綺麗な彼女に、怒られるかもしれないが、少しでも心休まる平和を授けれたら、どれほどいいか。
(まぁ、冷慈は今、きっとやっと落ち着くだろうからね。いろんなことが)
(優しくて綺麗な人に限って、どうして傷つけられて、傷つきにいくのかな。そんな人に限って、俺に頼ってこないところが好きなんだけどね)
(信じる者は報われる、それは純粋で優しい善良な者にのみ適応される、神からの加護)
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