報復降伏宣言

保健室についた頃、とりあえず、驚いた。
ネメシス(先生)がなにやら興味深々といった様子でまた姿の違う柊さんに詰め寄っている。

俺に似たような頭をして、柊さんの普段の藍色の目と神としての黄金の目のオッドアイ、で偉そうに座っている。


「柊さん?え?」

『やっと来たか、少年よ。私の声に聞き覚えはあるだろう』

「……あ!」


その声はさっき、水中で響いたあの声で。
おニイさんが後ろで首をかしげている。当然校舎に入ったときにはいつの間にか狐面を装備していたので、今は自分で立っているけど


『私は邪を従える神。どこぞの神話にも出てはこない人間の祈りによって生まれた九龍という都市の神だ。丁度いいところにいい餌食がいたので憑依しているだけだ。それよりも、どうだ、完全に神となった気分は。さぞよかろう』

「あ!ホントだー!レイレイ神様になってるー!おめでとうー!レイレイおめでとうー!クソガキのくせにやったじゃんー!」

「よくわかんないけどありがとぉ」


どうやら俺はあの時に完全に風神になっていたらしい。どうりでいきなり空へ舞い上がっていたわけだ。
おまけに枷が外れたおかげで俺を制御するものがないから戻れないようだ。


「アンタだったのか。ありがとう」


『言っただろう。代償は得た。引き換えならばそのような礼はいらんさ』


何も代償なんかとられてない気がするのにおかしなことを言う神様だな。と首をかしげてみていると、呆れたように鼻で笑らわれた


『邪を従える神。人間の願いが強ければ強いほど私は力を得、動かねばならん。お前の中に潜んでいた、妖怪としての邪もしかと引き受けた。それが代償だ』


それは代償というのか。
むしろ俺にとっては好都合のことだけど、どうやら利害の一致のようなので気にしないことにする。


『せいぜい、神として思うがままに生きることだな。私を動かすほど祈ったそこの狐の男に感謝せよ。人間でないはずの男が願ったというのに、想いが強い故に私が動かされたのだから。でなければお前はあのまま海の藻屑だった』


思わずまた凄い勢いで振り返っておニイさんをガン見した。当の本人は相変わらずヘラヘラとしている。
マジか。知らなかった。


「……もう礼は言わねぇかんな」

「うん、いいよぉ〜いやぁまさか僕が理由でだったなんて驚いたなぁ」

『その絆、遥か昔からあるものだ。絶やすな。絶やそうものなら二人まとめて邪とし、私が今度は命を奪いに来る、しかと記憶に刻んでおけ。私の人間からの呼び名はー……−−だ。さて、そろそろ飽きたな。この男、お前に返すぞ。女』

「へ?あー私かぁ!うん!わかったー!ありがとー!」


ニコニコとネメシス(先生)はいつもと同じように笑顔だ。
こりゃ俺のおじさんが気にかけるわけだ。
あの人はあぁ見えて心配性の保護者気質だし。


「……、ん?なんだ、お前戻ってきたのか」

「あ、戻った」

「センセー!おかえりー!」

「い、だだだだ!んなに馬鹿力発揮して抱きついてくるな」


さっきの神様が退いたらしく、柊さんがガクッとうなだれて次の瞬間いつも通りに戻っていた。
ある意味怖い現象である。
よく考えたら憑依だし。そうだな、怖いな。


「センセーへの愛の大きさだよー!」

「そりゃどーも。とりあえずお前はその愛とやらで俺をへし折る気か?」


馬鹿みたいな夫婦のような会話を見せられ、げっと思って保健室を出て行こうかと迷う。
そしてここに来た本来の目的をうっかりすっかり忘れそうになっていた。危ない危ない。


「あのさ、お取り込み中悪いんだけどさ、先生ども、俺のコレどうやったら戻んの?」

「あぁ、なんだ風神に成り上がったか。よかったな生きてて。そこは知らん」

「私もわかんないー!ゼウスに聞いてみてっ☆」

「………………はぁ」


思わずため息をついて、廊下へ出た。当然ピシャリとドアは閉めておいた。
いやそんなこう、うん。なことにはならないだろうけど、あの空気は俺には無理だ
アホかあのいい大人は。


「……れーじたんれーじたん」

「あ?」

「神様になっちゃったね」

「……日本神話のな」


正直そこがちょっと気がかりではあったものの、元から俺はそうなるためにここへ呼ばれたわけで。
まぁ、それで嫌といわれたらぶん殴るけども


「……これから僕とずっと一緒にいてくれるって、本当だよね?」

「さっき、あんなこっぱずかしいことさせといて聞くか?バラさないように見張っててやらぁよ」

「素直じゃないなぁれーじたんはぁ」

「ハート飛ばすなアホ」


妙に嬉しそうに寄ってくるおニイさんに軽口を叩きながら学園長室までの道のりを笑いながら歩いて行った


fin.

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