最終契約

「これはっ、……、俺が、持ってる、から……っ」


朦朧とした頭と激痛の走る身体でとりあえずかろうじて距離をとった。
それのせいで真後ろは今度こそ断崖絶壁だけど、そんなことを気にする暇もなかった


「れーじたん!ダメだよ、早く、それ僕にちょうだい!れーじたんが死んじゃうんだよ!?また僕を置いて逝くの!?」

「っ、るせぇ……!これ以上、これ以上、痛いことしなくて、いいんだよっ、アンタは……っ」


他の神様より優れないからこそ、他の神様よりも優しい。
だから、これ以上背負う必要はないし、背負わせる気もない。
俺はこんなに崩れているのに、ずっと、一緒にいたいけれど、迷惑がかかることはもうわかった


痛すぎて崩れ落ちたら、視界に空が映った


(あ、マジか)


足を踏みはずした感覚がして真下の海へと身が落ちていく


「れーじたん!!」


声だけが聞えて、そのまま真っ逆さまで海に突っ込んだ
泳げないので余計に困った。
あっさりと溺れて海水を飲み込んだ

(やっべぇ……息が、できね……エラほしい……)

これだからこんな深いところは好きじゃない。
冷たいし暗いし息もできない




『願うがいい。少年よ。命乞いをせよ』


真っ暗闇の中聞こえた聞いたことのない声で苦し紛れに一瞬目を覚まして、言われたとおり、無駄だとわかっていて願う


(まだ、まだ、生きていたい、約束、したー……一緒にいる、って)


『その願い、しかと私が受けた、しっかり代償は頂くぞ』


何が代償なのかはわからないものの、いきなり枷が無駄に光って水中にも関わらず砕け散った
それと同時に自分でも驚くような光を浴びて気づけば、さっきの断崖絶壁の上空に、いわゆる神化のような状態で不安定に浮いていた


「!?う、ぉ、わわあわ……!」

「!!れ、れーじたん……!?」

「……枷、外れたら、なんか、だな……」


さっきまであった痛みも嘘のように引いていて、この状態を覗けばいつも通り
ヤケになろうとしていたのかおニイさんが神化した状態で水でできた刃物のようなものを握っていた
俺を見た瞬間にあまりの衝撃だったのか落としてただの水に戻ったけれど


「よか、った……れーじたん、よかった……っ!」

「う、わわ、ちょ、抱きつくな、また落ちるだろ!つか、これどうやって戻んの?」

「驚かせないでよぉ……っ、また、置いて逝かれちゃうって、僕、僕……っ」


どうやら俺が元の姿に戻るのは、まだ無理らしい。
いや、そら俺が落ちたのがいけないんだけれども


「……おう、ごめん」


それにしても、あの声はなんだったやら。それと、代償つっても何も取られていないんだけども。
ためしに脈をとってみてもドクドクと波打っている
心臓はあるようだ。


(しっかし、代償って、なんなんだろうなぁ)



『お前の願いは聞いた。妖怪であるお前の邪の心、もらっていくぞ』


何がなんだかわからないけれど、とりあえず助かったらしいということで、泣いていたおニイさんと向かい合った


「ありがとな。……助けてくれて」


当然、今の奇跡的な出来事ではなく、その前のことについての言葉だけれど。
今度は俺の番だからとぶっきらぼうに立てた小指を突き出してやった


「泣いてんじゃねぇよ、ほら、もう、こんなにされちゃあアンタいねーと生きてけねぇだろ、俺。約束すっからはよ小指出せや」

「……っ、れーじたん、それ、チンピラっぽいよぉ」

「泣くか笑うかどっちかにしろ!つうかチンピラ言うな!」


まさかこんな年で指きりなんかするとは。どうした俺。と思いながら小指を絡めて少しとまる。
いや、しかしここまでしといて、だな

あんまり気乗りはしなので、ヤケでやってやるここまでしたんだヤケだこうなりゃヤケだ


「……ゆーびきりげんまん、うそついたら針千本のーます、指切った!!!!!」

「…………え」

「なんだよ!ここまでしといてコレ言わないのもなんかおかしいっつうかなんというか……!」

「……あははっ、れーじたん真っ赤だよぉ?」

「黙ってろ」


むしろ指切りしたらこう歌いたくなるだろうが。常識的に考えて。
あぁ、神様に常識通じねぇんだ。

そう思うとすげー恥ずかしいことをやってしまった気がして思わず頭を抱えて座り込んだ

馬鹿か、俺は馬鹿か
……馬鹿だった。


「ほーんと、れーじたんは馬鹿だねぇ」

「あぁ!?だから、読むな!」

「えー、読めちゃうんだもーん」

「わかってっけど読んでも声に出すな!」

「面白いじゃーん」

「こっのやろ……」


とりあえず、もう一回自分の黒暦史に認定した今のことは記憶の片隅においやって保健室に戻ろう。
この状態からせめて制服状態に戻りたい。
自分で戻れと思っても戻らないから困った。枷も、どうせ海のモズクになってるだろ。
海の藻屑じゃねぇモズクでいいに決まってんだろ。藻屑じゃねぇ。


「も、いいから戻るぞ」

「はぁーい」


神化を解いて黒い狐面をまた被ろうとしたおニイさんの手を止めて、肩貸せと呟いた
せっかく運んでやろうと言ってるのになんだよ、その驚いた目はよ


「校舎までな。中に入ったらつけろよ」


まぁ、本人が過去を気にしているんだから、無理に外してろなんて言わないけど。


「……れーじたん、やっぱり優しいんだねぇ」

「さぁ、なっと」

「え、また担がれるのぉ?」

「文句言うな落とすぞ。……っしゃ、走るぜ!」

「体力ないのにぃ?」

「持久力と言え。体力はある多分」

「筋力の間違いでしょ〜?」


ごちゃごちゃと言い合いながら、とりあえず校舎まで走っておいた。
当然校舎につく頃にはゼェゼェ言っていたものの。


(でも、まぁ、うん。中々青春だな)

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