暴風警報

『どうせ口だけならいらない』


俺は知っている、その言葉の先を。
完全に孤立されたわけではない中途半端に吊るし上げられた空間の先を。

最初から相手にされないことの楽さを。


「信じない、もう疲れた。許さない」


頑なに守ってきていた謎のプライドが砕けた気がした。
早く逃げたい。もう立ち向かうのは疲れた。と沸々と湧き上がってくる死への願望
どうして無駄に意地を張ってまでして俺は報復することを望んでいたのか。


「……いくらだって、口だけならなんとでも言えるさ。……ロクに人間一人助けようともしないお前等なんか、嫌いだ」


自分でも制御できないようで暴風が吹き荒れている。
その証拠に窓ガラスが今にも割れそうなぐらい音を立てている


「僕、だって……できるなら助けたかったんだよ……何も覚えてないクセにさァ、そうやって言うの、やめてよねェ」


いつの間に神化したのか、狐面のおニイさんはその姿を惜しみも無く晒してくれた。


「!!」


やっぱり、あのときの姿と同じで違うことといえば狐面の色ぐらいで。
どこかでやらかした。と思っているものの、悲しみか怒りかほかの何かなのか、よくわからないが、こうなってしまったら、もう戻れないと本能で悟った


「……たったあの一回きりのくせに、助けたかったなんて、調子いいぜ。助けたかったなんて、どうせ口先だけの戯言なんだろ?自分をこれ以上悪く見せないためのさ」


言いたくもないことをツラツラと述べるこの口がおかしい。
どこかでこの状況を楽しんでいる自分がおかしい。


「許サナイ。アノ人は、ソンナコト言わなかった。君ナンカ、全然、一緒ジャナイ」


俺と誰を比べてるのか、おニイさんはそんなことを言っている。
まぁ誰だかは知らないけど比べられるなんてごめんである。

どうやら激怒してしまったらしいおニイさんから水の魚のようなものが作り出され俺へと飛んでくる。

元々空手してるせいもあってか動体視力だけは優秀な俺はそれを寸前までひきつけておいて交わす


「そんなこと、言わない。か……。言わなきゃやっていけない窮地まで追い込まれてんだよ、俺はな」


言わなければ、やってられない。生きていけない。
良い人を貫くだけじゃ生きていけない腐った世の中に放り出されたのだから。

見ていれば、きっと俺よりも辛い人生を歩んできたことぐらい、わかってはいるけれど
生憎、俺は同情をしてやれるほど優しくできてない。


「どうせこうなるならもっと早く、俺が折れればよかった」


どうせ、誰にも届かないのなら。
いくら足掻いても結局全てが水の泡なのだから。

どうやらおニイさんは俺を殺してくれそうな雰囲気をしている
丁度いいような、悪いような。

まぁ、内に秘めていても、読まれてしまうんじゃあまり意味はない。

だったら口に出した方が利口かもしれない。


「日本神話の神様嫌いだろ、アンタも神様のくせに。ほら、俺は風神なんだからさ、殺しちゃえよ」


好都合だなぁ。とおニイさんに寄っていけば、水の魚が俺の頬を引っ叩くように当たって弾け消えた

地味に痛い。



「それは、僕のコト侮辱シテルノ?死ねない僕をまた、置いて逝くの?」

「またってなんだよ、いってぇな」


一度だって、こんな神様の目の前で死んでやったことはない。
現に俺は生きているのだから。

よくわからないけれど、殺してはくれないらしい。
あぁ、残念。


「あーあ、飽きた飽きた。もういいか?言いたいことはもうねぇよな?」


どうしようかな。皆殺しにしてから俺は高みの見物をするのか、俺だけが"逃げる"のか。
でも、戦争の女神もいるし神罰の女神もいる。
ましてや柊さんにグル兄に、いくら神か妖怪かわからないがこんな姿であろうとも勝てる気はしない。

そうなると自動的に選択なんて後者になるわけで。


「今からね、このおにーさんが皆に絶望したせいで死ぬからね、皆が罪人に成り下がっちゃうね」


保健室の窓の向こう、実態のないモヤがそう告げる。
その声が聞えたのは一体何人だろう。


(そう、俺はこの世の中にも神様にも人間にも全て絶望して諦めた)

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