ほら、また現実

俺の期待とは裏腹に案外起きたときも、"俺"は何も変わっていなかった。
何一つ忘れてない、あのままで、痛む身体も落ちた場所も変わらない。
変わったのは空の色ぐらいだ。あっという間に夜と化していたようで、辺りは真っ暗だった。
おまけに外灯のない寮の裏側。いよいよこんな時間にこんな暗がりに誰かが来てくれるとは思わない。


「……ほら……何も、かわんねぇじゃん……。神様なんか、いねぇじゃん」


ここは神様の集まる学園らしいけれど、だったらなんで、俺は……。
もういい、やめよう。と起き上がるのもしんどいからその場で大人しく倒れておく。
誰も来ないように気づかれないようになるべく端の物陰には移動するけれど。


「……ついてねぇ。こんなとこまで来て突き落とされるとは」


あれは明らかに事故ではなかった。故意的に落とされた。
……と、言ってもきっと通じないだろう。
だったらもうドジったことにしておくのが一番安全だ。前みたいに言い訳であれ、死のうと思ったと言ったらネメシス(先生)に罰せられるらしいからそれは面倒だし柊さんも恐いし


なんで、こうなるんだ、いつもいつも。とくたびれきった倒れたままの身体で思う。
別に目に余るようなひどい怪我をしているわけじゃない。制服を脱いだら痣だらけにはなってそうだけど
服を着ていればわからないぐらいの、怪我。


「アイシ!レイジどこだ!?」

「おわ……、なんだよいきなり、あいつならその辺いるだろ」

「いないぞ?探してるんだ!コックリさんを今日こそさせてやろうと思ってだな……!」

「……やめとけよ」


そういえばここは寮の廊下の外っ側だ。通りすがったらしいイシスと哀詞の声が聞える。まぁ、こんな暗がりだし俺は物影だから、気づかれはしないだろう。
今日はもうここを動けそうにない。とはいってもまだ季節は春で流石にちと寒いから、腰に巻いてるだけのジャケットを肩から布団代わりにかける。

あぁ、もうこんな現実が突き刺さる。
解っていたから、あの時から。やっぱり俺は、誰から見ても都合のいい、捨て駒でしかない、と。
だから、こうなってきた。幼馴染ですら、昔から俺へ特別といった対応をしてくれていたわけではない。
してほしかったわけでもないけど、でもやっぱり、俺は自分のこのお人よしのせいで、いらないものまで背負い込んでいるから。

(なんで、あいつ等の分まで俺が引き受けちゃったんだろうな。)

本来なら俺に向かってくるのは可笑しいはずの行為すらも、あの3人の知らないところで俺が代用にされる。
それでいい、と言ったのは俺だけど。


(もう、疲れた……)


ボロボロと落ちる涙が頬を伝うたびにヒリヒリした。
どうやら顔の頬あたりを切っているか擦り剥いているらしい。


「……やめやめ。大丈夫、大丈夫。俺だから……」


この苦しいのも、辛いのもきっといつか誰かが見つけてくれる、とこんな目にあってもまだ思ってしまう自分と、誰にも見つけてももらえるわけもないし心配しているように見えてどいつもこいつも俺を嘲笑っているだろという自分がいて、正直に言うなら後者が現実で、前者なんか俺のただの理想で。


ゆっくりとその場でいろんな物に耐えるように襲い来た睡魔に身をゆだねる。



「……約束。今度は俺が、XXもらうから。ありがとう」

『いらないよぉお礼なんて。それに、そんなのまで君がもってかなくていーの』

「だって、俺、今嬉しかった」



また見た夢は少し暖かかったような気がした


(でも夢だから、どうせ。)


「……どこに行っちゃたのかと思えば、またこんな怪我だらけになっちゃってぇ」


(どうして、全部うまく回らない、んだろう)


すぐそこに誰かが来たことはなんとなくわかったけど、もう疲労と睡魔と痛みに耐えることにクタクタだった俺には何がなんだかさっぱりわからなかった。


(少しだけ僕にその痛いの背負わせて。全部持っていったら、怒っちゃうでしょ?)

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