これが偶然

「……」


授業を抜けて、海に出てきた。ここの海は綺麗過ぎてつまらない。透き通るように綺麗で醜さを映すこと無い綺麗さは俺を飽き飽きさせる。
汚れている海が好きというわけではないけれど、あの海は人間の汚さを象徴するようで、見ていて納得できた。これが現実なのだ、と。

(……綺麗、だな)

これが本来のあるべき姿であるはずなのに。人間も海も。



『辛くなったらおいでよ。ここなら、君はー……』




ふと脳内に流れた映像に違和感を覚えた。見覚えのあるようで、ない映像で顔から上がモヤでもかかったかのように思い出せない。
でも、俺が学ランに身を包んでいるし何やら絵の具まみれでいるからこれはきっと中学の最初の頃。

どうしても思い出せないからもう諦めた。変な白昼夢だということにしてしまおう。




「……約束。今度は俺が、XXもらうから。ありがとう、XX」



ふと思い出した自分の言葉に違和感を覚えた。大事なところだけやっぱりわからない。
それだけ思い出したくないのか、それともただの意味もない言葉なのかも分からないけれど、言ったことは言った気もする。
さて誰に向かって言ったのか。


「……やめやめ。白昼夢白昼夢。」


これ以上変な白昼夢を見たくない、と来たばかりの海を立ち去ることにした。
丁度そんな俺と入れ替わるように来たらしいあの狐のおニイさんが目に入る


「あれぇ?いっけないんだぁサボりぃ?」

「……アンタもだろ」

「僕はちゃーんとお嬢さんに言ってきたよぉ。ちょーっと外の空気吸ってくるねぇって」

「……へいへい」


釣具を持ってるところを見る限り決して外の空気を吸うというようなことではなさそうだ。
いや、外の空気を吸ってることにはなるんだろうけど、最初っから釣り目当てだったに違いない。


「……ほんと、おっきくなったねぇ」

「あ?」

「ううんーなんでもないよぉ」


通りすがりに小さく呟かれた言葉を若干耳のよろしくない俺が聞き取れるわけもなく、聞き返してもなんでもないと答えられたのでこのままこの場所を離れることにする。


(あの頃はもうちょっと、読みにくい子だったけどなぁ。……今じゃぜーんぶ丸見え、だからねぇ)


何か背筋が一瞬寒気を覚えたけれどそのまま振り向かずに歩くことにした。
俺の後ろにできた道は振り返ってもいい思い出なんかないのだから。


「……どうして、なんだろうな」


前に進むことしか許されない、道は一本しかしかないのにゴールすら用意されていない。
あるはずもないゴールに向かって歩き続けているのに休む暇すら与えてくれない。
だから、だから神様なんか、嫌いなのに。


(……くそ、なんで、今更……っ)


信じようとしている俺がいる。こんな俺、いらないのに。
結末は何度でもどんなシナリオでも一緒で、いつも誰かが俺を悪く仕立て上げて。


「…………。優しい、だけならどんなにいいことか」


ゆっくりと寮についているらしい避難用の螺旋階段を3階分まで登る。
踊り場もなくてクルクルしたこの階段から転げ落ちたらどうなるだろう。
打ち所が悪ければ死ぬんだろうけど、俺は何やら頑丈にできているようできっと死なない。
これは自信があった。死なない、と。


(……記憶さえ、消えてくれれば)


ポロっと記憶さえ落としてしまえば、今までのことも全部忘れて道もたくさん増えて、休む場所もできる。
そんな気が一瞬だけ脳裏をよぎる。

でも、それはやっぱりここまで来ておいて俺のプライドが許さない。
だから、いけないんだろう。

(くそ、なんで……っ)

あと少し、傷つけられれば躊躇も無く転げ落ちていったのに。
中途半端にまた信じようとしたから、また立ち上がらなければいけなくなった。
このままじゃまた、俺が泣くだけなのに。

自己防衛の仕方も分からなくて、まるで自分から火の中に飛び込んでいるような気さえする。
それでも、足は動いてくれない。

(なんで、なんで、なんで……!信じようと思う俺なんか、いらないのに)

それを消したくてここまで来て、転げ落ちていこうと思ったのに。


「……チッ」


できないらしい俺はまたゆっくり階段を一歩一歩下りていく。
ただ無心で降りている途中、クスリと嘲笑うような声がして、視界が回転した
本当に、下まで転げ落ちていた

さっきのもあってか、動くのもしんどいほどに痛くて下で激痛に耐えていれば上のほうから所詮モブの騒ぎ声が聞えた。

(待ってろよ、後で泥に戻してやる)

そんなことを思いながら、起きたら望んだとおりになることを祈って俺はあっさりと意識を飛ばした

(こんなところ、多分誰も来ないからな)

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