人のフリをしているの
あれから数日がたったものの俺は相変わらずの保健室登校で日々寝ている。
これじゃ病人のようだ。でも、このベッドは窓際で外を見れば空がきれいに映るから好きだ
「……、よし」
ここ何日間かでずっと言い聞かせてきた。俺はまだまだ泣き叫ぶほど苦しんでるわけではない正常だ、と。
本当にそうなのか、それとも実は俺の体験が回りも哀れむようなものだったのかも分からなくるほどに暗示にかけたからもう、大丈夫だろうと、退屈だった保健室を出た
「……、笑えば、いい。心も脳もついてこなくても」
もっと耐えていかなければ。自分だけが苦しんでいるわけでないなら尚のこと。
俺は強いから、できる。
真っ当な、人のフリをすれば、いい。
「……よーっす」
「冷慈さん!」
「だ、大丈夫か冷慈さん!」
教室に何日かぶりに顔を出せば草薙と尊がすぐに来てくれた。
(……何も、知らないから、な)
知ってほしいとも思わないけれど、知らないから俺に対してこうも懐いてくれているんだとも思う。
知ればきっと崩れるから、やっぱり踏み込まれてはいけない。
「あはは、大丈夫、大丈夫。んな風邪じゃねぇんだから」
「!!冷慈さん……?」
「お?草薙、どうした?」
「……あ、いえ……その前よりも笑顔、というか打ち解けた?というか……そんな気がして……」
「……あぁ、そうかも、な」
草薙のその違和感のようなものを聞いたときに、一瞬だけ冷めたような目をしたのを見られただろうか。
でも、これでいい。"人間"はいい人、らしいので、俺は自分が"いい人"にならければいけない。
どうせ、人間の底辺ならば、あいつらとは違う、ゴミくずにならなければいけない
あんな奴等と同じゴミくずになるのだけは勘弁してくれ、と心から思うから
(……でも、思ったより疲れる、のな)
必死に作った偽りの笑顔を貼り付けているのも普段やってこなかったせいで、急にすると異常なまでの疲労を覚える。
「……それで、笑ったつもりぃ?」
「……は?」
せっかく上手くやろうと人が必死こいて"いい人間"を演じようとしていたのに、あの狐のおニイさんが俺にそう通りすがりに囁いた。
下手くそだとでも言いたいんだろうか。いい。それでも。
今からまたこれに耐えていけばそのうち感覚なんて麻痺するもんだから。
そう、アレみたいに麻痺していく。
「おい、無視してんじゃねぇよ、このキチガイが」
「……だから?」
「は?」
「……俺がキチガイやったら、何なん?お前はドクズか、そうか知らんかった」
「ふざけとるんかよ、お前」
「あぁ、そうばい。俺、ふざけとうけんね。悔しい?もっと悔しがれよ、このド底辺が」
いよいよ麻痺をすれば簡単に相手を蹴落としていく。なんの躊躇もなく。
それと同じで麻痺したら、俺はいつだって笑顔を貼り付けることに慣れて、周りにももう害も及ばなくなるし迷惑だってかけない。少なくとも、コレが使えるのは、この箱庭に居る間だけなんだろうけど。
「頑張ってねぇ、自分に嘘をつく作業。……虚しい、だけなのにねぇ」
「……いい。なんでもいい。……底辺は底辺らしく、他人に迷惑をかけないように生きるから」
(許さない。そんな理由で僕と一緒になろうとするなんて、やめなよ)
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